とはいえ、作品はすべて常設展示であり、リピーターを呼び込むには工夫がいる。このため、同美術館は開館以来、さまざまなイベントに力を入れてきた。その中の一つ、2013年の夏休み子どもプログラムで実施した、名画に描かれた古代ローマ人の衣装を体験できる企画が、アートコスプレ・フェスの元となった。開催を重ねるごとに衣装の種類が増えるなど企画が充実。子どもから大人まで、多くの来館者が楽しめるイベントとなった。これを、人気の名画を中心に拡張したのが、今回のアートコスプレ・フェスだ。

 17年のアートコスプレ・フェスは、当初は9月末で終了予定だったが、好評だったため、開催期間を10月29日まで延長。館内では、フラッシュ、ストロボ、三脚を使用しなければ、写真撮影が許可されているため、展示されている作品の前で記念撮影ができる。同美術館の広報担当、吉本早希さんは「アートコスプレをして名画の登場人物になりきろうとすることで、その人物の装飾品やポーズなど、細かい部分まで興味を持っていただけるようになります」と話す。

 お土産にも力を入れる。開館当初、5種類しかなかったオリジナルグッズは、現在までに22種類に増えた。地元の菓子店の協力を得て開発、8月に発売した「ムンク阿波和三盆糖」(税込756円)は、ムンクの「叫び」を再現。独特の「キモかわいさ」で人気に火がついた。現在は1日限定30個、店頭のみの販売だが、午前中で売り切れる日も多い。

 モネの作品をイメージした「睡蓮まんじゅう」(同1296円)や、イタリア・スクロヴェーニ礼拝堂の天井に描かれた星空を金平糖にした「星空コンペイトウ」(同518円)も人気だ。自宅に帰っても名画が楽しめるオリジナルミニ陶板やポストカード、パズルなどもあり、お土産選びも楽しい。

 長年の取り組みの成果もあり、16年の来館者数は38万1000人と、前年の約1.6倍に増えた。17年11月末までは、ゴヤが晩年生活した家に描いた「黒い絵」など、奇妙で不思議な名画をクローズアップしたイベント「あやしい絵 名画の怪」を開催。開館20周年となる18年3月末には、展示室を増やし、作品を追加する予定だという。

「現地では時間制限がある名画や、遠くからしか見ることができない名画も、当館では、間近で心ゆくまで鑑賞できます。修復前の『最後の晩餐』や、かつて兵庫県芦屋市にあり、戦禍で焼失したゴッホの幻の『ヒマワリ』など、当館でしか見られない作品もあります」と吉本さん。

 陶板と侮るなかれ。原寸大で、細部まで忠実に再現された絵の前に立つと、本来の絵が持つ力なのか、なぜか圧倒されるのだ。見たことのある作品ばかりでうれしくなるが、くれぐれも“名画酔い”にはご用心。(ライター・南文枝)