■アルツハイマー型認知症を誘発するのは歯周病!?

 成人の8割以上がかかっているといわれる歯周病。それが認知症と深くかかわっている可能性も指摘されています。

 これまでにも、アルツハイマー型認知症の患者の脳から歯周病菌が見つかるなど、その関連性が指摘されていました。17年5月、日本大学歯学部の落合邦康特任教授らの研究チームは、歯周病とアルツハイマー型認知症との関連性を示唆する、新たな動物実験結果を発表しました。

 認知症の中でもっとも多いアルツハイマー型認知症。その原因はまだ完全には解明されていませんが、体内で発生する酸化ストレスによって、細胞や組織が悪影響を受けるのではないかという仮説があります。落合特任教授らのチームは、歯周病の原因菌によってつくられる「酪酸(らくさん)」という物質を健康なラットの歯肉に注射。6時間後に調べると、脳内の各部位で酸化ストレスが上昇し、なかでも記憶をつかさどる「海馬」でのストレスが顕著だったそうです。

 また、アルツハイマー型認知症の脳神経細胞内で過剰に増える「タウ」というたんぱく質も通常のラットに比べて42%増加しました。

「ラットの歯肉に注射した『酪酸』は、歯周病患者の歯周ポケットで通常の10〜20倍も見つかっています。健康であればポケットにとどまっていても、歯肉の炎症などがあると組織から血管に入り込んで全身をめぐります。それが長期間つづくと脳に悪影響を与える可能性は十分にあります。たかが歯周病と侮らず、できるだけ早く治療しましょう」(落合特任教授)

■8020だけじゃ効果半減。「かめる歯」が認知症を遠ざける

認知症と深くかかわる口の健康。なかでも「よくかむ」ことには大きな注目が集まっています。咀嚼の専門家である前出の志賀歯科医師はこう説明します。

「咀嚼とは、単に歯で『かむ』というだけのことではありません。食べ物をかみ砕き、すりつぶし、だ液と混ぜ合わせてのみ込める状態までまとめる動作です。歯、舌、あごなどが無意識のうちに協調し合うからこそできる複雑な動きなのです」

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