日常生活で気づく咀嚼力低下の注意ポイント
日常生活で気づく咀嚼力低下の注意ポイント

 65歳以上の4人に1人が認知症かその予備軍といわれる日本。認知症を予防し、発症しても進行を遅らせるためには「口の健康」が欠かせない。週刊朝日MOOK「家族で読む予防と備え すべてがわかる認知症2017」では、口から考える認知症、その新常識に迫っている。

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歯や口の機能と認知症の直接的な因果関係は、医学的に証明されていませんが、さまざまな研究報告から、歯や口と認知機能の深いかかわりが浮き彫りになってきました。

たとえば、愛知県に住む65歳以上の男女4千人を4年間追跡し、認知症の発症と歯の本数との関係を調べた調査があります。歯の残存数が20本以上ある人と、歯がなく義歯(入れ歯、インプラントなど)もつけていない人とでは、認知症になるリスクは1.9倍と大きな差異が見られたのです。咀嚼(そしゃく)力が低いと感じている人もまた、1.5倍のリスクがあることがわかりました。

 別の調査もあります。宮城県仙台市内の70歳以上の高齢者(1167人)を調査した結果、健康な人の歯の本数は平均14.9本、認知症の疑いのある人は平均9.4本だったのです(東北大学大学院/2003年)。

 マウスを使った広島大学の研究も興味深いものです。遺伝子操作でアルツハイマー型認知症を発症したマウスを、「奥歯を抜いた群」「歯がそろった群」に分けて比較したところ、歯を抜いたマウスのほうが学習能力、記憶能力があきらかに低下していました。

 さらに、日本体育大学保健医療学部の小野塚實教授の実験では、ガムをかんだときに脳の血流が増えるのは高齢者ほど大きいということがわかりました。とくに、集中力や意欲、共感力といった「人間らしさ」をつかさどる前頭前野の血流が増えて活性化するのです。

 日本歯科大学教授であり、日本咀嚼学会副理事長でもある志賀博歯科医師はこう話します。

「かむことによって脳の血流がよくなりますし、神経回路を通じて脳への刺激が送られることは確かです。それが認知症の予防に何らかのかかわりがあるのは確かだと思います。ただし、歯がなければダメかというと、そうではありません。かむことの刺激は歯からだけでなく、粘膜や筋肉からも脳に伝わっていきます。歯を失っても、入れ歯やインプラントを使うことによってしっかりかむことができれば、歯を失っても脳を活性化することは可能なのです」

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