「学校をやりたいんだけど」

 30年前、松任谷がユーミンに打ち明けた。

「えっ、何を言ってるの?」

 ユーミンは最初、松任谷の話す意味が理解できなかったという。

 ただ、その時、1本の映画を思い出した。ピーター・オトゥール主演のアメリカ映画『チップス先生さようなら』だ。松任谷はこの作品が好きで3回ほど一緒に観たことがあるが、3回ともラストシーンで目に涙をためていたからだった。

「この人、本気だわ」

 ユーミンは悟った。

「うちはずっと犬を飼っているんだけど、1度だけと住んだことがあるのね。その時、松任谷校長は本気で、お手! お座り! 待て! を教えこみました。彼が誰かに何かを教える執念はすさまじい。忍耐強い。けっしてあきらめません」

 ユーミンのMCに客席は笑いに包まれ、関係者スペースで待機する松任谷は苦笑いした。

 3曲目は「鷹になる日」。マイカ生のオリジナル曲だ。この30年の間に生徒がつくった膨大な数の作品の中から講師がセレクトし、さらに松任谷が数曲にしぼり、最終的にユーミンが1曲を選んだ。生徒が作詞作曲した曲をユーミンが歌ってくれるなんて。曲を作った見知らぬ在校生に嫉妬を覚える。

 4曲目は「卒業写真」。ツアーのアンコールで歌われる名曲だが、いつもはキーボードとのデュオ。しかし、この日はマイカバンドでの演奏。楽器の数だけ音に厚みがある。

 マイカの開校30周年記念ライブは、ゲストの顔ぶれも豪華だった。

●7月21日 稲垣潤一、清水ミチコ、岩沢幸矢(ブレッド&バター)、REICOなど
●7月22日 杉真理、東郷昌和(元BUZZ)、遠藤響子、谷幸子など。
●7月23日 大貫妙子、杉真理、東郷昌和、LISA(ex m-flo)など。

 マイカ出身者や、マイカにゆかりのあるミュージシャンが集まった。

 稲垣潤一は代表曲の1つ、「夏のクラクション」を歌った。キーボードの演奏は松任谷。オリジナルを大切にしつつも、微妙にアレンジを施したイントロが美しい。

 この曲のレコーディングはマイカの講師、重実博がプロデュースした。

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