次の「中央フリーウェイ」の後、ゲストヴォーカルをステージに迎え入れる。元m-floのシンガー、LISAだ。彼女は用賀駅近くの商店街にある焼き鳥店で育った。店の中の小さなステージで父親に演歌を歌わされていたそうだ。店名は「HEAVEN」。焼き鳥店なのに異国色が強く、その奇妙な雰囲気に吸い寄せられて、ユーミンも入ったことがあるという。

「まさかLISAがあの店の娘だったとは」

 後で知って驚愕した。しかも、LISAはデビュー当時、マイカの生徒だった。この夜はOGとして、“母校”に帰ってきたのだ。曲は「リアリティ」。2001年のユーミンのアルバム『acacia』で、LISAがゲストヴォーカリストとして歌った曲だ。アルバムと同じように2人で声を重ねた。会場はさらに盛り上がり、ユーミンのラストナンバー「卒業写真」へと続く。サビは会場全体で大合唱になった。

 3日間行われたコンサートで、21日と23日のラストに出演者全員で歌った曲がある。1990年代初めにテレビで放映されたカルピスウォーターのCMソング「白いKiss」だ。マイカ・ミュージック・ラボラトリーにとって記念すべき初めてのタイアップ曲だった。

 カルピスからマイカにオファーがあり、松任谷がプロデュース。当時在学中だった谷幸子が作曲。プロとしての活動を始めたばかりの本間昭光がアレンジ。本間はその後、いきものがかりやポルノグラフィティのアレンジャーとして活躍している。

「学校をやりたいんだけど」

 松任谷が口にしてから30年が過ぎた。日本版チップス先生のもと、いくつもの音楽が生まれ、何人ものミュージシャンが育った。

 音楽家は一生のうちに、最多で何作品生むことができるのだろう?

 ヘルベルト・フォン・カラヤンは生涯で540曲を録音した。

 多作で知られるサンフランシスコのロックバンド、グレイトフル・デッドは現在120枚以上のアルバムをレコーディングしている。

 しかし、音楽家が自分の学校をつくり、作詞作曲だけでなく、何人もの音楽家を育てたら、音楽は無限に生まれ続ける。自分がこの世を去っても、音楽遺伝子は脈々と生き続ける。

そのことをマイカの在校生や卒業生でぎっしりと埋まる客席で教えられた。(文・神舘和典)

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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