“適正AV”について語る志田陽子武蔵野美術大学教授と山口貴士弁護士。(撮影・筆者)
“適正AV”について語る志田陽子武蔵野美術大学教授と山口貴士弁護士。(撮影・筆者)

 AV出演の強要が社会問題化する昨今、政府より各都道府県警にAV出演強要問題の専門官を配置することを柱とした対策が5月19日、発表された。

 その一方でAV業界側からの動きもある。特に注目を集めているのが、“適正AV”という新たな枠組みだ。これは今年4月1日に発足した「AV業界改革推進有識者委員会(以下、有識者委員会)」なる団体によって提唱されたもの。この団体は大学教授や弁護士などの第三者によって構成され、AVメーカー、AVプロダクション、流通各団体などと連携しつつ、放送事業におけるBPO(放送倫理・番組向上機構)のような役割を果たすという。

 適正AVとはどんなAVなのか。これまでと内容は変わるのか。“不適正AV”を観た場合、どんな罰則があるのか。先述の有識者委員会の代表・志田陽子武蔵野美術大学教授と、同委員の山口貴士弁護士に話を聞いた。

■“適正AV”ってなんだ?

 そもそも不健全な印象があるAVに適正も不適性もあるのだろうか。事実、この枠組みが提唱されて以来、ネット上を中心に「品行方正なAVなんてありえない」「一部のジャンルのAVは観られなくなるのか」「モザイクが大きくなるのでは」といった声があがっている。だが、山口弁護士は「適正AVの登場によってAVの内容自体が変わることはない」と語る。

「適正AVの“適正”とは、AVを制作する過程が適正であるということ。そもそもAV出演強要問題は、撮影内容の事前説明がなかったり、女優の自己決定権の確保が不十分であったりすることによって起こります。制作過程に明確なガイドラインをつくり、それを遵守するAVを『適正AV』と呼ぶことで、出演強要問題を一掃するのがこの取り組みの目的です」(山口弁護士)

 唯一の変化といえば、AVのパッケージや画面中に「適正」を示すロゴマークが入る予定であること。どのようなマークになるかは未定だという。またAVメーカー大手4社は他の中小メーカーに先駆け、すでに適正AVに準じる内容での契約を開始しているという。「調整中のため、社名は明かせません」と山口弁護士は付け加えたが、大手4社がリリースする作品数を考えれば、すでにかなりの作品が事実上の“適正AV”化しているといえる。

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