出来高払いは医療経済学的に大きな問題があるシステムであることが判明しているため、多くの先進国は他の支払制度に変更しつつある。

 日本も近い将来、新しい支払制度を導入することになるかもしれない。そうなった時に、医師には医療費の問題を意識しながら、目の前の患者さんにとって最適な医療サービスを提供するという健全なコスト意識が求められるようになる。

■個々の医師が業績評価される

 米国では19年度から、医師個人に対しても業績を評価し、それに伴った医療費が支払われる仕組みが導入される。医師の業績は、(1)医療の質、(2)コスト、(3)診療行為の改善、(4)電子カルテの有効活用などによって評価されるようになる。つまり、高い医療の質を、より低いコストで提供する医師に対してより多くの報酬が支払われる仕組みになる。

 全ての医療行為に伴う費用は、保険料や税金を通じて巡り巡って国民が負担することになる。そのため、医師には医療の質だけでなく、医療費に関しても説明責任が生じる時代が、すぐそこまで来ている。

 なお、医療費が高くなりすぎているため、高齢者に対する医療サービスは保険から外すべきであるという考えには私は賛成できない。

 医療の20~30%は無駄であるという研究結果がある。医師のなかには、風邪に対して抗生剤やイソジンのうがい薬を処方したり、残念ながら科学的根拠のない医療行為を行う人もいる。まずは、医師が患者さんにとって本当に必要で、科学的根拠に裏付けされた医療行為を行うようになれば、誰も不幸にすることなく、世代間の衝突も生むことなく、医療費を抑制することができる。

 財源に限りがあるため、いかに医療の質を保ちながら医療費を抑制するかが日本にとってカギとなってくる。そして、これからの医師は、このような医療経済学的な知識をきちんと持ち、日々の診療において患者さんに本当に意味のある医療サービスのみを選択し、提供することができる能力が必要となってくる。

(アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』に寄稿)