しかし、意義が感じられ、やりがいもある仕事である。医療行為を通じて病気で困っている人たちを助けることができ、それによって給料がもらえるだけでなく、しばしば患者さんから感謝されることもある、すばらしい仕事であろう。しかし、派手な仕事ではない。毎日こつこつと人のためになる仕事を続ける忍耐強さがないと医師という仕事は務まらない。

 残念ながら、今後、医師を取り巻く条件は少しずつ悪くなってくることが予想される。これは勤務医、開業医にかかわらず、全ての医師に対して起こりうる変化である。

 日本の医療費は40兆円を超え、2016年にはOECD(経済協力開発機構)諸国の中でもアメリカ、スイスに次いで世界第3位の医療費の高い国になった。日本の債務残高は対GDP比で230%そのものの問題ではなく、経済成長が不十分であることが主な原因であると考えられているが、いずれにしても国の歳入が少ないため医療費に使えるお金は年々減ってくる。

 日本の医療費の総額は国によって決められているため、医療費を引き下げれば、医療にかかわる業界は全て影響を受ける。医療費総額の絶対値が下がっていなくても、物価上昇率と比べて医療費の伸びが少なければ、実質的には、医療費は引き下げられているのと同じことである。

 さらに、日本は医師数を増やし続けている。医療全体に使うことのできるお金が減って、医師の数が増えているので、医師一人ひとりの給与はおそらく下がってくるだろう。つまり、今後大きな経済成長が起こるか、もしくは医師数をあまり増やさない方向に舵が切られない限り、医師の所得は今後下がっていくと考えられる。医師は、住む場所や条件を選ばなければ仕事がなくなるということはないので、その点では他の職業よりは安定しているものの、医師の所得は少しずつ下がっていく可能性があるということを覚悟しておいたほうがよいだろう。

 そんな時代だからこそ、医師の仕事に本当にやりがいを感じられることが、より一層重要になってくる。条件が悪くなってきても、そこに意義を見いだし、やりがいを感じることができれば、とても夢のある職業である。しかし、条件が良いという理由だけで医師という職業を選択した場合、条件が悪くなってくるとモチベーションを保つことは
難しくなってくる。

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