そんな日本人が明治から昭和にかけて大挙して初詣に出かけるようになった背景には、江戸時代に大流行した「お伊勢参り」があるといわれている。

 戦国時代が終わり、江戸幕府が成立すると、藩ごとにわかれていた国境が撤廃され、関所がなくなることで往来が自由になり、街道の整備も進んでいった。

 その頃、伊勢神宮は「御師(おんし)」という広報のような役割の人々を全国に派遣して、神宮の御利益や由緒を説きながら行脚させていた。

 時代の安定と関所の開放で、庶民でも、徒歩で、かつ「一生に一度」の大イベントという位置づけではあったが、旅ができる世の中になりつつあった。その目的地として、町や村を訪れた御師から散々聞かされていた、伊勢神宮への参拝が好まれたのだろう。

 伊勢はまた、京や大坂に近い場所にある。せっかくだからと、合わせて見物に行き、土地のものを味わい、土産を買って、観光を楽しむ。

 親しいの人たちと一緒に、同じ目的をもってイベントに興じるという、お伊勢参りのスタイルがもともと根付いていたからこそ、初詣という新しい習慣も自然と広まっていたと考えられる。初初詣をはじめとして、寺社を中心とした日本人のレジャーのルーツは、お伊勢参りにあるといえるのかもしれない。(文・室橋裕和)