スペインのクレー(土)コートで育ったダニエルのプレースタイルは文字通りどこか泥臭く、長いラリー戦に持ち込み、どんなに攻められても諦めずに食らいつき、相手より1本でも多くボールを打ち返すことでポイントを奪っていく。そのような信念はコート上のみならず、彼のテニスに取り組む姿勢や、人生観そのものとも呼応するのだろう。興味深いのは、本人も「課題」だと認めているフィジカル強化に関するプランだ。

 「僕は27歳が一番良い時期になると思うので、その時に体重が85kgになっているようにしたい。今は80kgを切るくらいなので、1年に1~1.5キロ増やしていきたいです」というのが、本人が描く青写真。先を見すぎることも、夢みたいなシンデレラストーリーを思い描くこともなく、各駅停車でも確実に前に進むことを、彼は何より重要視する。

 対する西岡は、170cmの小さな身体に目一杯詰め込んだ負けん気を爆発させるかのように、ライバルたちの活躍に刺激を受け、闘争心に自ら火を着け、上へ上へと駆け上がるタイプだ。西岡の同期には先の楽天ジャパンオープンで優勝したニック・キリオスがおり、その下の世代にもアレクサンダー・ズベレフやカレン・カチャノフら、既にツアータイトルを手にした期待の若手が名を連ねる。

「僕と同じ世代の選手たちが100位内で頑張っていて、20位前後の選手にも勝っている。多くの若手が上位勢を倒している現状に居る今、僕自身もそこを超えていける場所に来ていると信じている」

 今年3月のマイアミ・マスターズに出たとき、西岡はそう言い、自らを奮い立たせ、そして現に2回戦で世界23位のフェリシアーノ・ロペスを破ってみせた。さらにはこの夏にも、世間がリオ・オリンピックに沸き立つその裏で、38位のアレクサンダー・ドルゴポロフら上位勢を破って初のATPツアーベスト4進出も成している。まだ、1年を通じてトップレベルで走りきるだけのスタミナには欠けるが、シーズン中や時にはトーナメント中にもトレーニング期間を設け、フィジカルも重点的に強化中。もれ聞こえる「あの小柄な身体では、世界で戦っていくのは難しいだろう」という声すら、「じゃんけんに負けるのも嫌」な程に負けず嫌いな西岡にとっては発奮材料だ。

 ダニエルと西岡のうち、先にビッグサプライズを演出するのは、もしかしたら勝負師の西岡かもしれない。あるいはランキングで先行するのは、焦らず歩みを進めるダニエルの方かもしれない。

 それぞれ選ぶ道や、アプローチ法は異なる2人――。それでも彼らが目指す場所は、最終的には同じである。その目的地を背中で示す存在として、錦織圭という最高の先駆者が居るのは2人にとって幸運な現状であり、日本のテニスファンにとっては、幸福な時代である。(文・内田暁)