Photo by Yuji
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 綾部は、その収録を振り返って「M-1の決勝2本目で、ネタが飛んだ状態が7時間続く感じ」と表現した。現場にはNetflixの日本チームが見学に来ていたが、収録後に「もう、途中で見てられなくなっちゃいましたよ……」と哀れみの混じった言葉をかけられたという。オンエアでは、オーサムのくだりは全てばっさりとカット。「全身傷だらけ。心もめちゃくちゃエグられました。こんなつらい目に遭うの? 芸人20年やってて、オーサムの一言か、って。でも、アメリカ生活で一発目に、あれだけの大きな舞台で貴重な経験をさせてもらえたのは、エンターテイナーとしてすごく良かったなと思います」

英語力は「1万点満点中の4点」と言われた

 そんな、打ちひしがれそうなほど分厚い言葉の壁を前に、綾部はそれでもアメリカでエンタメをやっていく、やっていきたいのだと言う。「日本のお笑いはすごく精密。エピソードトークなんかも繊細に練り上げられて、芸人は言葉のプロです。お笑いって、芸人にもお客さんにも、学習されまくっているんですよ。僕は特殊な、とんでもない世界にいたんだなと思うんです」。

 だから言葉のできないアメリカでは「半分もぎ取られるような感じ」。いくつも英会話学校に通い、その中で出会った日本人の英語の先生には「100点満点の4点ではなくて、1万点中の4点」と評された。それでも、自分は相手を30秒見ればその人が何を好むかを読み取り、心地よい笑いを提供する能力があるとの自負から、アメリカでもある程度の英語力が身に付けばもっと面白くなれる、自分はコメディ・アクターを狙う、と確信をもって語る。「10年死ぬ気でやれば、エンターテイナーとして笑いを操れるようになる。日本を100とすれば、アメリカでも65くらいまではいける。十分な計算じゃないかな」

 計算、という言葉に、綾部の自己プロデュースを感じた。この人は、はちゃめちゃに見えて常に自分を俯瞰しているのだ。「毎秒、やるべきなのかやめるべきなのか考えてますよ(笑)。あのね、自分のターンが来た時のためにとずっと考えて準備してる芸人こそ、ダメだと思ったら辞められるんです。辞めない奴が偉いわけではない。芸人の世界には、辞められる奴の方が少ないです。だから、自己評価と他己評価にズレを作らないように俯瞰して、自分のピントはきっちり合わせているつもり。主演:オレ、観客:オレで、誰がなんと言おうと、ぼくの一番のファンはぼくなんです」

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映画の端役やCM出演を自力で獲得