いま、綾部はアメリカで自分の持てるすべての能力をオーディションにぶつけ、映画の端役やCM出演を自分の力でもぎ取っている。「自力で、なんてのがカッコいいとも思いません。コネでもいいから、とにかく映画に出られればいいのよ(笑)。事務所の力で出られるものなら、出たいですよ。でもアメリカでそんなわけないでしょ」

 そう笑う綾部から、アメリカでたくさんぶつかって鍛えられた、凄まじいまでの野心が蒸気のように立ちのぼるのが見えるようだった。「世間からの見え方はどうでもいいんです。ぼくは他人に認められたくてアメリカに来たのか、そうじゃないでしょうと。そんな勲章いらない。ぼくには本気でしたいことがある、それだけです」

まだ、スタートラインにも立ってない

 ニューヨークでの5年を終えて、ロサンゼルスへ拠点を移動した。次の5年のプランは何をどう企んでいるのか。「この5年は、いわば会場前で手首を回したり、ウォームアップをしてきただけ。まだ会場に入れていない、全然スタートを切ってないんですよ、ぼくは。だからスタートラインに立って、埋もれないように、自分でケツ叩いて走っていかないと」

 エンタメの本丸と言えるハリウッドのほど近くで、この5年はエンタメを見つつ英語を納得できるレベルにしたいという。ニューヨークでは老人ホームで働くことで現地の生活の中に入り、人々の話す生の英語を学んだ。ロサンゼルスでは制作現場で「照明運んだり、大道具やったり」何らかの仕事を手伝い、よりエンタメに距離を詰めていきたいと希望している。

「ぼくのインスタグラムには60万人くらいフォロワーさんがいます。こちらでの生活を発信していると、時々『綾部さんは自分の好きなことができていいですね、自分を好きになれていいですね』ってメッセージが来る。でも、行動しないで、できない理由や言い訳を並べる人って、そんなの誰も気にしていない。やりたいことがあるならやればいい、その責任を自分で取ればいい、それだけでしょ」

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故・立川談志にかけられた言葉