5年間の沈黙は、たくらんでいた
オチのための「フリ」だった

 それから綾部は日本のメディア取材に応じることもなく、一度も帰国せず、自分の予定通り本当に5年間をほぼ沈黙して過ごした。「本当は、インスタすらもやらないつもりでした」。それは、芸能メディアが噂していたように、日本の芸能生活に疲れ、日本を捨てたからだったのか?

Photo by Yuji
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「違います」と綾部は苦笑した。「5年後、それまでの沈黙を破って、バーッと流暢に英語だけをしゃべってオトしたかったんですよ。口を開いたらあの綾部が英語しかしゃべらない、って出オチ、面白いじゃないですか。だから、それまでは過程を見せないようにしていたんです。たとえば5年後に変なメイクで出オチしようって企むのに、途中でメイクの進行をちょこちょこ見せる奴はいないでしょう」

 ところが、綾部にとって英語の習得は想像以上に困難な道だった。「本来思っていた出オチとは違う形になるぞ、これじゃ弱いな。じゃあ『5年かけて失敗しました』って話そう、45歳、人生半ばまで生きたところで、これまでは取材でもかわして答えてこなかったことを全部表に出そうと。エンターテイナー綾部としての、一つのケジメなんです」

 5年間の沈黙は、出オチのための根気ある「フリ」だった――。「美学なんかじゃないです」と綾部は否定したけれど、これが芸人としての最高の美学でなくて何だろう。

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