●オリンピックのリレーで銀メダル、その意外な理由とは?

――お二人は、リオ・オリンピックをどうご覧になりましたか?

松村:ウサイン・ボルトの走りが、今回とてもよかったですよね。9秒58で世界新記録を出した時には及びませんが、大会の直前に怪我をしたでしょう?トレーニングを減らし、治療に専念していたからだと思いますが、それで肩まわりの余計な筋肉が落ちたと思うんです。

 ボルト選手の持ち味は鎖骨を中心に上半身をダイナミックに動かせる柔軟性にあるのですが、筋肉をつけすぎるとそれが妨げられ、結果としてパフォーマンスが落ちてしまいます。今回は、怪我の功名というか、筋肉が落ちたことで全盛時の動きに近づけたんですよ。

 日本代表の銀メダルもすばらしかったですが、あの時のボルトの走りは別格でした。ゴール前の加速は、目を見張りましたね。

渡辺:僕は山縣亮太選手の走りに興味を持ちました。

――「目の前のゴミを拾うような感覚でスタートダッシュを心がけている」というコメントが、新聞の記事になっていましたね。

松村:両足の親指や母指球で踏ん張るのをやめると、体は自然と前傾姿勢になり、体の重さが利用できるようになるんです。前傾姿勢のような不安定な状態をつくったほうが、体はラクに動かせるんですね。山縣選手がその感覚をつかんでいるのであれば、すごいことです。

渡辺:ええ、僕もそこはとても共感できました。

松村:リレーについては、本にも書きましたが、バトンを持つと普段より腕が振りづらくなりますね?腕が振れない分、体幹を動かさざるを得なくなりますから、パフォーマンスが上がりやすくなるんです。

渡辺:手先のような体の末端部を制御したほうが、体幹が動かしやすくなるわけですよね。僕もふとひらめいて、いまは指にテーピング巻いて走っていますが、それだけでも動きは全然違います。

 最近、気まぐれに小指に巻いてみたら、不思議なのですが、以前よりも重心が安定するようになったんです。

松村:ゴルフのスイングや剣道の素振りでも、それこそ料理で包丁を握った時でも、小指に力を入れますよね。そうやって小指に圧力がかかると、指先から腕、背中の腱が一本につながり、体がラクに動かせるようになります。体を上手に使われていると思いますよ。

渡辺:おっしゃる通り、背中が押され、ラクに走れる感覚があるんです。ふとひらめいたことを試しただけなのですが、面白いですね。

松村:無意識に感じたことがヒントになるんです。他の仕事にも言えることだと思いますが、常識にとらわれているとひらめきがキャッチしにくくなるので、つねに疑う気持ちが大切ですね。

●骨を意識することでゴルフの飛距離が380ヤードに!

渡辺:走っている時、自分の理想とする状態にピタッとはまって、時間が止まったような感覚になることがあるんです。すぐに余計なことを考えてしまって、ほんの一瞬で終わってしまうんですが、これが続けばきっとすごい記録が出せると感じています。

松村:私の武術の師匠である甲野善紀先生は、「いまどうやって技をかけたんですか?」と聞かれると、「気を失っていました」と答えるそうです。渡辺さんも気を失っていればいいんですよ。

渡辺:何も考えない……脳のほぐしが大事ということですね。筋肉はある程度はほぐれてきたので、あとはここ(頭)かなと(笑)。

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