松村:「こうしなければならない」「こうなりたい」という思いがとれると、いろいろな呪縛が外れて、自然に体が動きだすようになります。いまの渡辺さんならもっとすごい動きができますよ。

渡辺:いい走りができると、欲が出ちゃうんです。いいと思ったと同時にもっと行けるという欲が湧いて、走りを邪魔してしまう。これが取れれば、走りの質が変わるんでしょうが……。

松村:うまくできた時って、じつは手応えがないのが普通なんですよ。でも、脳はそれに満足しないでしょう?

 達成感よりも心地よさが大事なんです。骨ストレッチの認定指導員の一人である志村博康君は、骨身にまかせる感覚を身につけることで、ゴルフのドライバーの飛距離が285ヤード(約260メートル)から380ヤード(約347メートル)まで伸びました。

 踏ん張って立つのをやめると、スイングした時の手応えはなくなりますが、飛距離は驚くほど伸びるんです。いま、女子プロゴルフの新星である岡山絵里さんが骨ストレッチを実践して、急成長していますよ。スイングも見違えてきたので、ツアー初優勝も間近じゃないかな。

渡辺:松村さんと話していると、余計なことはせず、もともと持っているものを使えばいいんだって改めて感じますね。

松村:そうです。足し算よりも引き算の発想が大事なんです。

●上原浩治がメジャーで成功した理由は骨の使い方にあった!

松村:先日、アメリカでレッドソックスの上原浩治投手のピッチングを見る機会があったのですが、彼はすごかったですよ。毎回、背骨の位置を微妙にずらしながら投げているのがわかりましたから。

 3塁側のスタンドからじっと観察していたんですが、バッターはタイミングがとれないので、すごく打ちにくい。去年の怪我から復帰したばかりでしたが、やっぱりメジャーに通用するだけのことはあるなって思いました。41歳であのピッチングはすごいと思いますよ。あばら骨(肋骨)をやわらかくすると、もっと動きがよくなるでしょうね。

渡辺:あばらの一帯をほぐすのはいいですよね。骨ストレッチにもありますが、拳でグリグリとマッサージすると、上半身の可動域が広がって、呼吸がとてもラクになります。

松村:あばら骨のまわりというのは、じつはさまざまな筋肉の密集地帯なんです。ここをもっと柔軟にすれば、それだけですごい力が出せるようになることを知ってほしいですね。

渡辺:昔はあばらなんてまったく考えてないで走っていましたから(笑)。意識していたのは、手と足と背筋くらいで。

 骨という言葉自体が出てこないですよね。あばら骨の一帯を意識していたとしても、大胸筋という言葉を使ったり。

松村:同じ場所を意識していても、大胸筋を鍛えようとすると体幹が固まって、体が動かなくなるんですよ。

渡辺:鍛えた筋肉が逆に重荷になってしまうんですよね。普通は、鍛えれば、いまよりももっと体が動かせると思うわけですが……。

松村:固めるよりゆるめることが大事なんです。実際、しっかりトレーニングするより、ケガなどで休んでいたほうが体が硬化せず、試合でかえって結果が出せることも多いんですよ。

渡辺:うまくサボることも大事ですよね。僕は陸上のコーチもしているのですが、そこがなかなか伝わらなくて。

松村:サボれる人のほうが、本当は伸びるんです。

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