渡辺:ええ。ですから、あえてハードな走り込みを課すこともあります。余裕がなくなってくるにつれ、余計なことを考えなくなり、無駄な力を抜くことを考え出しますから。

●理想の体の使い方は、筋肉と骨のバランスにあり

松村:ゴルフの場合でも、ドラム缶3杯分くらい打ち込めと言いますね。ヘトヘトにならないと、筋力に頼って打とうとするクセが抜けないので、極限まで体を使わせようとするわけです。

渡辺:あえてやるという感覚が大事ですね。

松村:ええ。ただ、一度コツをつかんでしまえば、そこまでやらなくてもいいかもしれません。

 会社でもベテランが頑張りすぎると、新人は育たないでしょう?人の体も、筋肉ばかり使っていると骨はずっと埋もれたままで、効率のいい動きがいつまで経ってもできません。

 筋力を否定しているわけではなく、骨を利用することで筋肉もフルに活用できるようになります。私自身、熱心にウエイトトレーニングをやっていた現役時代よりいまのほうが、素早く、自在に動けるようになりました。

渡辺:筋肉の世界だけでなく、かといって骨の使い方を覚えるだけでもなく、陰と陽が合わさった中庸が理想の体の使い方だと思いますね。僕はいま、この中庸を追求しているんです。

松村:ええ。目に見える筋肉が陽だとしたら、目には見えない骨は陰になります。骨を意識するということは、体の内側に目を向けるということですから、感性や感覚を磨くことにつながっていきます。いまは、体の外側ばかり気にしすぎていますよね。

渡辺:日本の陸上競技も、そうした筋肉主体の発想が変わってくるともっと結果が出て、面白くなってくる気がします。ジャマイカの選手の走りを見ていると、やっぱり魅せられますから。

松村:骨身で動いていると体の切れ味が良くなり、たくさんの人を魅了する動きができるようになるんです。筋力ばかりだとぎこちなく、世界レベルの動きについていけないでしょうね。

●仕事のパフォーマンスを上げる秘訣は まず骨をゆるめること

――一般の人のヒントになるようなアドバイスはありませんか?

渡辺:呼吸が大事だと思いますね。ストレスが増すと吸う時間が長くなり、その分、吐く時間が短くなります。

松村:そうした深い呼吸をするためにも、体幹のやわらかさは必要ですね。体を固めてしまうと横隔膜が動かなくなり、呼吸も浅くなります。

渡辺:先ほど話したあばらのほぐしに加え、整体的には小指をもむこともおすすめですね。小指をほぐすと副交感神経が優位になり、リラックス度が増すと言われているんです。

松村:指をもむのはいいですね。第一関節の部分をこまめにもんであげるだけで、ストレスケアになりますよ。

渡辺:ゴルフボールの上に足裏を乗せ、体重をかけてグリグリやると、老廃物がとれ、全身がすっきりします。ストレスがたまっていると痛みは強いですが、体のほうは喜びますよね(笑)。

松村:皆さん、頑張りすぎているんですよ。だから、まずはゆるめてあげる。骨ストレッチを実践する場合も、言われたことをこなすだけでなく、心地よさを体感することが大事です。心地よさを求めるのはハイパフォーマンス、頑張りを求めるのはローパフォーマンスですから。

――渡辺さんは、去年、武井壮さんらとのチームでマスターズのリレーでアジア新記録を出しましたが、今後のチャレンジは?

渡辺:まだまだ体力的に問題はないですし、マスターズでも、実業団でも記録は出せると思っています。ですから、当面は記録もしっかり求めていきますが、同時に体の使い方をもっと極めていき、人が見ていてワクワクするような自分も周りも楽しくなる走りを実現していきたいですね。

松村:体が喜ぶことって、じつは「常識外れ」のことが多いんです。その意味では、頭を柔軟にして、非常識な発想を身につけていくことも大切です。骨ストレッチを体験することで、皆さんにはこれまでの発想そのものを見直していってほしいと思っています。

渡辺:常識に守られていると安心できますが、正解がその安心の中にあるかというと、そうではないですよね。

松村:非常識であること、不安定であることを怖がらず、楽しんでいくことが、これからの時代で活躍するキーワードでしょう。渡辺さんのこれからの活躍も、大いに期待しています。
(聞き手/構成・長沼敬憲)