先日『トランスフォーマー:リベンジ』の試写会に出向いた樋口真嗣(ひぐちしんじ)さん、今石洋之(いまいしひろゆき)さんと一緒に、原寸大ガンダムを見にお台場まで出かけました。
 思った以上の珍道中で、大の大人が何をやっていると思われるでしょうが、本人達は脳がとろけるほど楽しかったのです。
 心はいつも半ズボン、三バカロボ大将のガンダム行軍にしばしおつきあい下さい。

 当日は、午前中は晴れていたのですが、午後には雨模様。
 早めに待ち合わせ場所の新橋に着いたところに、樋口さんから「雨と風が強いですが大丈夫?」というメール。どうやら世田谷のほうは荒れ模様の天気だったので心配になったようです。
 今石さんからも、雨で足下がグチャグチャになってないかとのメールが届きました。 とりあえずみんな移動を始めてるし、予定通りゆりかもめの新橋駅入り口で集合しましょうと連絡して、一人先に行って待ってました。
 待ち合わせ場所でしのつく雨を見ていると、僕も不安になってきます。
 確かにガンダムがある潮風公園は海辺。風が強いと傘も効かないし、服はずぶ濡れ靴はドロドロになってまで見る価値があるのか。俺ももうすぐ50、なのになぜそこまでする。そんなにガンダム好きか、ズブズブドロドロになっても悔いなしと開き直れるほど好きなのかと、どんどん自分を追い詰め始めました。
 樋口さんと今石さんがやってきた頃にはすっかり弱気モード。
「まあ、向こうも足下悪いかもしれないし、ここは勇気ある転進と言うことで」と言うと、樋口さんが「えー、なんでかずきさんがそんな弱気なんですか」と異を唱えます。 もともと僕から声をかけたので、弱気になっている自分達を叱咤激励し前進あるのみと言うんじゃないかと期待されてたらしいのです。
「『ガンダム』のアニメ本篇に、雨のシーンがあれば臨場感湧くんですけどね」と今石さん。
 確かにそうだ。これがザンボエースなら、ダグラムなら雨の名シーンがあったじゃないか。そうすりゃ自分達も登場人物の気分になっていけるのに。
 大の大人が三人であーだこーだと議論します。いや、議論なんてもんじゃない、オタクの戯言です。
 しかもゆりかもめの駅にあがるエスカレーターの前。
 考えてみれば、これも相当に恥ずかしい。
 15分ほどうだうだしていたのですが、結局は「とりあえずゆりかもめに乗ろう。雨がひどければ、電車の窓からガンダム眺めてそのまま新木場まで行こう」と言う前進だか後退だかよくわからない折衷案で改札口に向かいました。

 新木場行きのゆりかもめがちょうどホームに停車していました。
 奥の方の座席が空いていたので座ろうとすると、樋口さんは先頭付近から動きません。
「だってゆりかもめですよ。ここは子供のように、目の前に広がる風景を楽しまないと」
「おお、確かにそりゃそうだ。だったら次の電車に乗って、先頭座席を陣取りますか」 僕の提案に樋口さんは心得たとばかり電車を降りると、次の電車が来るのを待ちました。
 ドアが開くとお客さんが降りるのももどかしく、いそいそと乗り込み、うまく先頭座席に座ることができました。
 もう三人ともご機嫌です。姿はおっさん、心は小学生。ダメダメな逆名探偵コナンです。
 行くか行かないかさんざん喋ってた辺りから、妙な脳内麻薬が出てきたのでしょうか。三人とも妙にハイテンションになってきていたのです。

 電車が出発してしばらくすると、西の空がだんだん明るくなってきました。
 これは雨がやむかも知れないな。そう思ってふと反対側の海を見ると、そこに虹が。「あ、虹だ!」
 指を指して車両内に響き渡るような大声で叫んだのは、僕でした。
 後ろには親子連れもいるのに。子ども達もいるのに。その誰よりもはやく、まもなく50になろうというおっさんが「あ、虹だ!」じゃないだろう。まったく大人げないたらありゃしない。
 叫んだ瞬間に、そんな思いが頭の中を駆けめぐりました。猛烈に恥ずかしくなり頭を抱えてしまいます。
 恥ずかしがっている僕を見て、樋口さんと今石さんがゲラゲラ笑っています。
「中島さんが恥ずかしがらなきゃ僕らも普通に『確かに虹ですね』って受け止められたのに。頭抱えるからかえっておかしいんですよ」
 今石さんの冷静な言葉に、ますます穴があったら入りたくなります。
 でも電車に穴はありません。
 後ろの子供連れの父親が「レインボーブリッジにレインボーだね」とうまいことを言うのが、弱った心にまたダメージを与えます。
 大人ならそのくらいのこと言えよ。指差して「あ、虹だ!」。そんな、見たまんまなこと言っていいと思ってるのか。仮にも劇作家だろう、お前は。
 情けない気持ちでいっぱいのまま、台場の駅に着きました。
 そこでまた僕たちは衝撃的な光景に出くわすのです。

 長くなったので、次回に続きます。