そこで研究チームは考えた。
「阿修羅像をつくってみよう」
CTスキャンのデータが便利なのは、必要なところだけを自在に抽出できることだ。阿修羅像の内部を支えている心木を部分ごとに取り出したり、心木に打たれている釘だけを抽出したりできる。
しかも、それらを3Dプリンタで「印刷」すれば、樹脂で復元したパーツの一つひとつを手に取ることさえ可能だ。
像内のパーツは寸分の狂いなく再現され、それを元に、木材による心木の制作も進められた。
そもそも、阿修羅像に使われた木材の種類は外側からはわからない。しかし、他の像の残欠を参考にできる。阿修羅と同時に造られた八部衆の腕の残欠や、十大弟子の一体、舎利弗(しゃりほつ)像のむき出しになった左腕を見れば、心木はヒノキだとわかる。ただ、CT画像に写った木目の粗さや細かさから、阿修羅の心木は場所によって樹種が違うことが考えられた。
仏像の修理や制作を手がけてきた仏師・矢野健一郎さんと愛知県立芸術大名誉教授・山崎隆之さんの経験で心木は絞り込まれた。体幹はヒノキ、長く伸びる腕はスギ、手はキリだと。
この木の選択が阿修羅像を1300年保たせてきた大きな理由のひとつだった。阿修羅像は布を貼り重ねた張り子だ。6本のほっそりした長い腕が左右上下に伸びているが、重い木材を使ったのではその重さを支えきれない。やはり軽いほうがいい。手にキリを使ったのも、より軽くする工夫だろう。
矢野さんは釘の再現も進めた。私たちは、てっぺんが円形の洋釘を思い浮かべるが、阿修羅に使われたほとんどの釘は和釘だ。針の形をした本体の末端をたたいて折りたたみ、打ち込むときに「玄能(げんのう)」でたたく部分をつくり出す。長さや太さも実物そっくりにつくり、実際に心木へ打ち込んでみると、本物の阿修羅像と同じような割れ目ができたという。
像の表面の仕上げ方などは、心木の像とは別に復元半身像をつくって確認した。