阿修羅像(興福寺蔵、写真撮影:金井杜道)
阿修羅像(興福寺蔵、写真撮影:金井杜道)
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 天平文化の至宝、阿修羅像。表情豊かで優美な装束、しなやかな手足を表した造形は、脱活乾漆(だっかつかんしつ)造りという特徴的な技法による。この技法は天平期に大いに流行ったようだが、どうやって内部を抜き出したかなど、その詳細はよくわかっていなかった。非破壊のCT調査で、美術史、保存科学、木材学の研究者や仏師らが、造像の謎にあの手この手で迫った。『阿修羅像のひみつ――興福寺中金堂落慶記念』(朝日選書)では、調査結果を詳しく報告するとともに、それをベースに進められた再現実験の過程や結果についても、それぞれの専門家がたっぷり解き明かしている。CT、AI、機械がはじき出した意外な結果に、研究者たちは――。

【秘密のベールに包まれていた、阿修羅像の内部はこちら】

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 レントゲンやCTスキャンの画像を医師が見落として、ガン患者が亡くなったというニュースが全国で相次いでいる。先端の医療機器がいくら普及しても、肝心の「見る目」がなかったら、まったく役に立たないのだと痛感させられるできごとだった。

 国宝・阿修羅像のCTスキャンによる健康診断では、研究チームは見落としのないよう、細心の注意を払った。文化財の保存科学担当者、美術史研究者、仏像の制作技術の研究者、仏師、そして森林科学者。何度も集まってはスキャンで得られた画像をコンピュータ上で動かし、検討を重ねた。

 ほぼ全身をくまなく撮影したデータは、上下左右、自由自在に動かせるし、見たいところをどこからでも切り取って見ることができる。体を輪切りにした画像を、頭のてっぺんから足裏まで徐々に下げながら見ていくとか、胸の下から斜めに見上げた形で内部を透視するとか、いろんなことを試せる。

 しかし、同じ画像を見ていても、それが阿修羅像の、どの部分のことなのか、どういう構造なのかの理解は、人によって違う。ましてや、実際に仏像を制作したり修理したりしてきた研究者と、自然科学系の研究者とでは、イメージが同じであるわけがない。例えば「丸い石」というひと言でも、人によって頭に思い描く画像はバラバラだ。

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そこで研究チームが考えたのが…