10年前はほとんど人がいなかったという「ジュエリーアイス」の大津海岸。「どの場所でも地元を撮り続ける写真家がいるので、そういう人とのコミュニケーションは大切」(山本純一さん。写真も)
10年前はほとんど人がいなかったという「ジュエリーアイス」の大津海岸。「どの場所でも地元を撮り続ける写真家がいるので、そういう人とのコミュニケーションは大切」(山本純一さん。写真も)

 写真愛好家の撮影マナーが問われている。人物が被写体なら肖像権などを盾に撮影を拒むこともできるが、抗弁もせず、黙々と撮影愛好家を受け入れ、自分の身を汚し、時に命を絶つのが自然界の生き物である。アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』では、自然写真の撮影について特集。夏休みを生かして旅行を楽しみながら撮影も、という愛好家は多いはずだ。人気撮影地でいま、何がおきているのか。札幌市在住の写真家、山本純一さんに聞いた。

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 札幌を拠点に、北海道の自然風景と動物を撮り続けている写真家の山本純一さんは、ネイチャーフォトの基本は、「自然とじっくり対峙してそこで感じるものを、極力そのままに撮る」ことだと考えている。

 新緑の季節に渓谷で撮影した際、数日前にあった草(写真下)が根こそぎ折られているのを見つけたことがある。

「写真愛好家がやったかどうかはわかりませんが、写真を撮るときに邪魔だからと手前の枝や葉を折る人は結構多いんです。たとえ雑草でも、新緑の葉は色もきれいで絵になりますし、手前にボカして入れる方法もあります。邪魔ならアングルを工夫すればいいし、どうしてもというときは緑色のテグスで軽く固定して、撮影後に外して元に戻すことだってできます。そんなひと手間すら面倒なのでしょうか」

 山本さんは、じっくり時間をかけてどう撮影するかを考えるのではなく、早く撮って結果を出したいという焦りがあるのではないかと推測する。

「いったんイメージを固めると、そこにないものを邪魔だと感じてしまうのかもしれません。雑誌に載った写真を参考にしてもいいのですが、固定観念にとらわれずに撮ってほしいですね」

 北海道でも、人気の撮影スポットでは三脚の場所取りが過熱しているという。

「富士山ほどではないと思いますが、タンチョウヅルで有名な鶴居村の音羽橋は外国人も押し寄せています。写真教室の生徒を連れて行くことがあるのですが、ほぼ隙間のないところに後から無理やり三脚を入れてくる人もいます」

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暗黙ルールを気にしない