下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
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深夜のシムケント駅。客引きのタクシー運転手がたむろしている
深夜のシムケント駅。客引きのタクシー運転手がたむろしている

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第56回はカザフスタンのシムケント駅から。

【タクシー運転手がたむろする、深夜のシムケント駅】

*  *  *

 10年ほど前、カザフスタンのアルマトイからウズベキスタンのタシケントまでの列車に乗ったことがあった。乗り込んだのは、ロシアのノヴォシビルスクとタシケントを結ぶ列車だった。

 指定されたコンパートメントには、朝鮮系の若い女性が乗っていた。仕事でロシアに行った帰りだという。中央アジアには朝鮮系の人たちがかなり暮らしている。戦前、旧ソ連に渡った人たちの2世、3世だ。その境遇は日本の在日韓国・朝鮮人に似ている。彼女は流暢なロシア語を話した。

 彼女の目的地は僕と同じタシケントだった。

 アルマトイを発車した列車は、半日ほど茫漠としたステップ地帯を走り、シムケントに近づいていた。すると彼女が、列車を降りる準備をはじめた。

「タシケントまでじゃないの?」
「そうだけど、シムケントからバスに乗ったほうが早いんです」

 列車はシムケントに着いた。多くの乗客が降りていった。皆、タシケントに行く人のようだった。

 シムケント──。そのときから気になる街だった。

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今年、シムケント駅で下車してみると…