情報公開請求と並行して、国有地売却の際に開かれる財務省国有財産近畿地方審議会の過去の議事録や不動産登記などの資料を集め、地元の行政関係者や学校関係者への取材を重ねた。当初は10年以内の売買を約した定期借地契約だったが、その後、10年間の延納(分割払い)での売買契約に切り替わっていた。公共用に利用されない場合に国が土地を買い戻す特約が付されており、買い戻し特約の売買代金は「1億3400万円」と注記されていた。特約は売却価格と同額なのが通例だ。
森友学園が購入する6年前、豊中市は学園が取得した用地の東隣にあった、ほぼ同じ広さの国有地を購入していた。価格は14億2300万円。不動産鑑定士による評価額で、学園が取得した土地も路線価からみて10億円は下らないと推測できた。買い戻し特約の売買代金1億3400万円が売却価格だとすると、あまりに安すぎる。
購入した本人に事実関係を確認するしかないと、大阪社会部で同僚の飯島健太記者(現国際報道部)と2人で、学園の籠池泰典(やすのり)・前理事長に直接取材することにした。電話で学園に申し入れたが、「悪く書かれるので結構です」と職員に断られたため、17年2月6日に、園児たちが帰ったころを見計らって、事前の約束無しで学園の幼稚園を訪問した。
「何かアポ無しやね」。そう言いながらも、籠池前理事長は取材に応じた。戦前・戦中の教育の根本理念となった「教育勅語」が掲載されている学園のホームページなどから、前理事長は先鋭的な保守思想の持ち主だと把握していた。しかし、本人と言葉を交わした印象は「ふつうの大阪のおっちゃん」。取材に関西弁でぽんぽんと答えた。こちらが登記簿謄本を示し、買い戻し特約の売買代金は売却価格と同額が通例だと指摘すると、前理事長はあっさりと売却価格は1億3400万円と認めた。価格決定の経緯も尋ねたが、「価格は国が決めた。こちらから提示していない」などと話した。
朝日新聞が問題を報じると、財務省は籠池前理事長の了承を得たとして、売却価格を一転して公表し、土地の鑑定価格約9億円からごみの撤去費として約8億円を差し引いたことを明らかにした。疑問は本当に8億円分のごみが埋まっているのかどうか。すでに国の費用で約1億3千万円をかけ、コンクリートの廃材などを撤去していたことも判明した。近畿財務局は問題が大きくなると、「財務省本省に問い合わせを」と取材を拒否するようになった。