初報を出す前から、大阪社会部で教育担当だった石原孝記者(現ヨハネスブルク支局長)も、小学校の設置認可を条件付き「適当」とした大阪府私学審議会への取材を進めていた。自己資金が少なく、小学校の建設費用の大半を寄付金でまかなう方針だった学園側の計画と財務状況、教職員の不十分な態勢などの疑問点も、売却価格の一報後に次々とあぶり出した。大阪社会部内で会議を開き、遊軍記者や大阪府、大阪市政担当の記者も情報を共有することにした。国会での動きをフォローするために、東京社会部や政治部とも連携して取材班を立ち上げた。
大阪府庁担当の記者は、学園が府私学審向けに出した資料を入手。資料には財務状況を良く見せかけるため、校舎の建築費を7億5600万円と記載していた。補助金を申請した国には建築費を約23億8400万円と記載。大阪(伊丹)空港を運営し、近隣の小学校の空調設備に助成金を出す「関西エアポート」には15億5500万円と書き込み、同じ日付で3通りの契約書を出していたことが判明。この資料からは、学園が相手の承諾なしに愛知県の私立中学校への推薦入学枠があると説明していることなどがわかり、さまざまな特報につながった。
その後、籠池前理事長は小学校の建設を断念し、用地は特約に従って国に買い戻された。会計検査院は17年11月、地中のごみの量について、国が売却契約時に推計の理由としたデータは根拠が不十分としたうえで、独自に試算した結果、最大で約7割減るなどと指摘した。18年3月には朝日新聞の報道により、財務省が森友学園との国有地取引の際に作成した決裁文書を改ざんしていたことがわかった。
籠池前理事長は国の補助金を詐取したなどとして妻とともに大阪地検特捜部に逮捕、起訴され、今年5月25日に逮捕から約10カ月ぶりに保釈された。一方、特捜部は同月31日、佐川宣寿(のぶひさ)・前財務省理財局長を始めとして、告発された財務省関係者ら38人を背任や虚偽有印公文書作成など、全ての容疑で不起訴にした。この処分を不服として、検察審査会への審査申し立てが相次いでいる。検審は今後、検察が起訴を見送った判断が正しかったかどうかを市民の目でチェックする。そして、真相への突破口を開く取材は、今後も続く。(朝日新聞大阪社会部・吉村治彦)