建設が進められていた森友学園の小学校=2017年3月9日、大阪府豊中市 (c)朝日新聞社
建設が進められていた森友学園の小学校=2017年3月9日、大阪府豊中市 (c)朝日新聞社
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 朝日新聞取材班が、2018年5月時点の取材記録をもとにした『権力の「背信」――「森友・加計学園問題」スクープの現場』(朝日新聞出版)を出版した。そこには日々の取材に奔走してきた記者たちの姿が描かれている。

 日本の政治・行政を揺るがし続ける問題は、何が「きっかけ」となったのか。疑惑の端緒となる事実を掘り起こした、朝日新聞大阪社会部記者の吉村治彦が振り返る。

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 もう1年半も前になる。森友学園への国有地売却に絡む問題を最初に報じたのは、2017年2月9日付朝刊だった。きっかけはその数カ月前の夕方、当時私が支局長を務めていた豊中支局(大阪府豊中市)に、取材先の女性からかかってきた、1本の電話だった。

「豊中市が以前、公園用地として取得を希望して断念した国有地が、ある学校法人に売却されたようだ。しかも財務省が売却金額を非公表にしている」

 学校法人は森友学園。その土地で小学校の開設を目指していて、名誉校長には首相の妻の安倍昭恵氏が就任していた。背景はよく分からなかったが、「何かありそうだな」と素朴な疑問から取材を始めた。

 財務省近畿財務局に取材してみると、公共目的での利用で土地を売却する「公共随意契約」で、少なくとも過去3年間で価格を非公表にしているのは森友学園だけとのことだった。「学校運営に影響するので非公表にした」となんとも不可解な説明で、担当者は明らかにこちら側の取材を警戒している様子だった。

 旧大蔵省理財局の通知では、公平性の観点から、国有地の売却価格は公表が原則とされている。国有地を購入して価格を公表されていた他の学校法人や社会福祉法人の担当者は「財務局からは、『国有財産なので公表しますね』と言われた」などと取材に答えた。売却価格を非公表にしたうえ、十分な説明もしない財務省の対応に、「何かおかしなことが起きている」と記者魂に火がついた。売却価格の開示を求めて財務省に情報公開請求もしたが、やはり非公開とする決定だった。

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