2001年、相方からコンビ解散を言い渡された小籔は、お笑いを辞める決意をした。ただ、コンビとして残っている仕事もあるので、その思いはごく一部の吉本興業社員にしか伝えず、日々を過ごしていた。
そんな中、ロッシ―から電話がかかってきた。「今日遊びましょうよ」。断りの返事をしても、ありえないくらいのしつこさで「ウチの家に来てください」と誘ってくる。いぶかしく思いながらも、ロッシ―の家に行くと、缶ビールが山ほど用意されていた。とにかく金のない時期で、ビールなんて、そうそう買えるものじゃなかっただけに、その時点で、これは普通ではないと感じたという。
「あとから、こいでも終電で駆けつけて、3人飲んでたんですけど、何と言ったらいいのか、ふと、場の空気が変わったんですよね。ほんで、2人を見ると、意を決した顔で『辞めんといてください。小籔さんは絶対に売れます』と。あとから聞くと、劇場スタッフ経由で解散の話を聞きつけた2人が、いてもたってもいられず、やってくれたそうなんです」
本来、後輩から先輩に言うべき言葉ではないのかもしれないが、それを承知で、翌朝5時にこいでが始発で仕事に行くまで、延々「辞めんといてください。絶対売れます」を2人は繰り返した。
「ロッシ―の家に行くまでは、完全に辞めるつもりでした。でも、一晩話をしたところで、思ったんです。こんなにエエ人間に囲まれてできる仕事はなかなかないやろうなと。そんな人らと別れるのはもったいないと。そして、今思うのは『オレらが止めたから、今のあの人があるんやで』と2人にイキってもらえるように、僕はもっともっと頑張らなアカンということです」
ロッシーに光が当たり、そして、くっきーも売れた。コンビはまさに一蓮托生。どちらかが世に出ていれば、その屋号が廃れることはない。今のくっきーのブレークは決して単発ではなく、文脈ありきだと僕は確信している。
13年5月、ロッシーの結婚発表会見があった。当時は天然キャラでロッシーの方が注目を集めていた時期でもあった。そこで、くっきーがロッシーの奥さんについて「目鼻立ちがハッキリしていて、有名人で言うと、若い頃の布施明さんに似ています」と説明、自作の似顔絵を披露した。「布施明さんを書くつもりが、間違えて、布施博さんを書いてしまいました」とボケながらリアルなタッチの布施博の似顔絵を出したが、今ならば報道陣から大きな笑い声が出るところだろうが、その時はあまりの生々しい画風に、お笑いの取材経験が乏しい女性記者などはリアルにドン引きしていたのを思い出す。
陳腐な“コンビ愛”なんて言葉は似合わない2人なのだろうが、実は「野性爆弾」こそ、生き様でそれを体現してきた。そう思えてならない。(芸能記者・中西正男)