だが、創志学園が整列を拒否してアピールを続けると、審判団は両校ナインにベンチでの待機を命じ、約5分間の協議の末、「ワンバウンドした打球がバッターの足に当たった」として、判定を「ファウル」に訂正した。
「フェアは(球審の)誤審です。ミスジャッジを正確な判定に戻しました。審判団が整列したのは不手際でしたが、ゲームセットの宣告はしていません」(山河毅審判委員長)
最後の打者になるはずだったのに、判定訂正で命拾いした難波は「また1球打てる。がむしゃらに食いついていった」と気合を込めて右前安打。次打者・北川大貴も左前安打で満塁とした後、高井翔の三遊間安打で2対1と逆転。さらに2点を追加し、4対1とした。
一方、「試合が中断され、全員が気持ちを切り替えられなかった」(今村仁哉主将)という玉野光南は、心の隙をつかれる形に。9回裏の攻撃も、高田萌生(現巨人)の前に3者凡退。今度は本当のゲームセットとなった。試合後、甲子園出場が幻と消え、泣きじゃくるナインの姿が同情を誘った。
田野昌平監督は「一度決まった判定が覆るのは残念。正しいジャッジを早く出してほしかった」とコメント。
勝った創志学園・長沢宏行監督も「勝者も敗者もある世界。“相手の気持ちも考えなさい”と選手には言った」と夏の甲子園初出場の喜びよりも、不運な敗戦に泣いた相手チームを気遣っていた。
●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。
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