しかし、そうは言っても、韓国の29,891ドル(同29位)よりは8000ドル以上高く、約1.3倍もある。その比率で言えば、韓国が830円にする最低賃金は、日本では1067円くらいでもおかしくない。これは東京都の最低賃金958円をはるかに上回る数字だ。逆に、韓国が日本並みの最低賃金にするなら、660円でも十分なのだが、韓国は、かなり背伸びをして、これを思い切り引き上げようとしている。これが本当にうまくいくかどうかは、もう少し時間を見て判断しなければならないだろうが、韓国は、日本より、はるかに労働者の利益を優先する政策を採っていることだけは確かである。労働者の生活水準を上げて、それでもやっていける経済を作らなければ、人口減少社会は乗り越えられないということを分かったうえでの政策なのか、単なる人気取りなのかはわからないが、日本よりも厳しい人口減少社会に入った韓国は、結果的に日本以上に先進国になる準備をしていることになる。
ちなみに欧州諸国も、労働条件を上げてもやって行ける経済を作るのには大変苦労した。各国とも20年程度は苦闘の歴史だったと言っても良いだろう。その意味では、韓国の試みが数年で実を結ぶと考えるのは明らかに楽観的過ぎるし、数年で結果が出なかったからと言って、失敗だと断定するべきではないと考えるべきだ。
アベノミクスは、企業を優先する金融緩和と円安で輸出を増やし、企業収益増と株高を実現すれば、そのおこぼれ(トリクルダウン)で労働者の収入増は後からついてくるはずだという戦略だ。つまり、まず、真っ先に企業が儲からなければすべてがうまくいかない。企業ファーストの政策だから、逆に言うと、企業が困ることはできない。
一方の韓国は全くその逆で、まず、労働者優先の政策で彼らの生活水準を上げ、その購買力によって企業利益や経済全体が拡大すると考えているようだ。
最低賃金へのアプローチも、両国の根本的な哲学の違いが反映していると見ることができる。