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 ペルソナとは他人に見せる顔のこと。いわば「仮面」です。強豪アメフト部の監督やコーチとして、人気アイドルのメンバー、一国の総理として……。人は誰でもみな、社会的地位や役割、TPOに応じて態度や行動を変えているのです。心理学者のユングが提唱したこのペルソナの概念は、現代のストレス社会を考えるうえで大きなヒントになります。『心理学でわかる ひとの性格・感情辞典』から解き明かします。

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 パーソナリティーを構成するペルソナは、人が成長する過程のなかで社会に適応するために身につけた人格のこと。ひとりで家にいるときとは違う、他人に見せるための顔です。

 ペルソナはもともと演劇用の仮面を意味しています。衣装も同様で、自宅にいるときはスッピン&ジャージでも、会社に行くときはスーツを着てお化粧をします。デートではお化粧も濃いめ、アクセサリーをつけ、おしゃれなバッグを持って行くかもしれません。会社にいるときでも、休憩中と接客中とでは話し方や態度も変えるでしょう。男性が男らしい行動を、女性が女らしい態度をするのもペルソナで、内面には真逆の側面をもっていることもめずらしくありません。

 ペルソナは社会に適応するために欠かせないスキルですが、場面によってあまりにも違いが大きいと、「あの人は裏表がある性格だ」と判断される可能性も。たとえば、学校ではすごくおとなしい子が家ではわがまま放題だったりします。もっと極端な例を挙げれば、結婚詐欺師などはペルソナ使いの達人といえます。仲間といるときはデタラメでだらしなくても、女性の前では完璧な紳士として振る舞うことができるのです。

 ペルソナの概念を初めて提唱したのは、無意識の研究で知られるスイスの心理学者で「分析心理学」の創始者であるカール・グスタフ・ユングです。

 ユングは“舞台を離れても仮面を外せない人”がいることに気づきました。支配的な親に抑圧されてつねに優等生を演じている子どもなどがそれです。本人はほとんど無意識でやっているので、ペルソナの切り替えがうまくできません。このような状況が長く続くと、ストレスで病気になってしまいます。ユングによれば、ペルソナは夢に現れるといいます。場違いな服やサイズの合わない服、あるいは鎧、あるいは何も着ていない裸など「衣服」の形で現れる場合が多いようです。ユングの夢分析は現在もカウンセリング(心理療法)で使われています。

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