交渉の結果、車両は同社から市に無償譲渡され、13年4月から、ボンネット広場で公開が始まった。同じ489系の先頭車両「クハ489-1」は、京都鉄道博物館で展示されている。保存会によると、ボンネット型特急電車は現在、全国で6両が展示されているが、自治体が保有しているのは小松市だけだという。

 ボンネット広場では、維持管理のための募金として1人300円(小学生以下の場合は1世帯300円)を払えば、運転室に入れる。運転席に座って、汽笛を鳴らすこともできるのだ。保存会では、車両下部のスカート(排障装置)の塗装やヘッドマークを替えて、さまざまな時代の姿を再現する撮影会を開くなど、何度も足を運んでもらうための工夫も重ねている。

 ただ、製造から長い年月が経過した車両は劣化が激しく、塗料やパテ(車体の下地やファンデーションの役割を果たす塗料)の内側の鉄板はぼろぼろ。穴が開き、雨漏りしている場所もあった。保存会はこれまでも応急処置的な補修を行ってきたが、補修個所が増え、見た目が色あせてきたため、抜本的な補修に取り組むこととした。

 インターネットのクラウドファウンディングなどで資金を集め、16年10月から17年3月にかけて車両の前面、17年12月から18年4月半ばにかけて車両の側面などを補修。この冬は大雪で約3週間作業が中断することもあったが、こつこつと作業を積み重ねていった。

 大変だったのは、厚く塗り重ねられていたパテを落とす作業だ。「長年にわたる簡易補修の繰り返しで厚みを増し、どこに穴が開いているのか分からない場所もあった」(岩谷さん)

 すべての塗装とパテをはがして鈑金を補修、劣化した雨どいを張り替え、洗面所の窓も復元した。

 ボンネット型特急電車には、多くの人の思い出が詰まっている。岩谷さんが子どものころ、旧国鉄だった時代は、駅長室や車両基地が遊び場のようなものだった。「運転士や車掌が、気さくに電車の運転席に入れてくれた。汽笛を鳴らさせてくれたこともある。自分が少年時代に国鉄職員の方々にしてもらったことを、今の子どもたちにも体験してほしい」(岩谷さん)

 今後は、連結器カバーやスカートを外すなどして、7月末までにデビュー当時の姿を再現する。岩谷さんは「将来的には、北陸に特化し、技術的にも新幹線とリンクした新たな車両の展示や、往時の姿をリアルに体感できるような運転台シミュレーションの導入も目指したい。博物館の展示ではできないやり方でリアリティーを追求したい」と話す。

 小松市のボンネット型特急電車の車内は、2018年度は、原則として、12月8日までの土日祝日の午前10時から午後4時の間で一般公開される(休日や夏休み中の平日公開もあり)。ぜひ現地で、地元の人たちや鉄道ファンの“ボンネット愛”を感じてほしい。(ライター・南文枝)