起用された投手の数が増えるに従い、当然のことであるが完投数も減少している。また80回大会は延長引き分け再試合が1試合あったため、合計36試合が行われたがその半数の18試合が両チームとも完投という試合だったが、今大会では準決勝まででわずかに4試合しか記録されていない。今後もこの傾向は続いていくことは間違いないだろう。

 もう一つ今大会で象徴的だったのが積極的な攻撃をしかけるチームが多かったことだ。簡単に言うと、送りバントではなく、強攻策で得点するケースが増えているのだ。

 その象徴的な試合が3回戦の日本航空石川(石川)対明徳義塾(高知)戦。1対0で明徳義塾がリードの9回裏、日本航空石川はノーアウト一・二塁のチャンスを迎える。セオリーであれば送りバントでワンアウト二・三塁にするところだが、3番打者の原田竜聖は初球のスライダーをレフトスタンドに叩き込む逆転サヨナラスリーランを放って見せた。

 日本航空石川の中村隆監督は試合後、原田に「バントするか?」と聞いたが「打ちます」と言われて打たせたと話したが、日常的にそのような戦い方をしているからなせた業と言えるだろう。

 日本航空石川以外にも強攻策を選択したケースは多い。準決勝までの34試合でノーアウト一塁の場面から送りバントを決めたケースは59回あったが、強攻策を選択したケースはそれを上回る88回を数えた。大会新記録となる68本のホームランが記録され、強打のイメージが強かった昨年夏の甲子園大会でもノーアウト一塁の場面からの送りバントは97回記録されている。今大会がいかに少ないかがよく分かるだろう。

 そして、その背景には、ノーアウト一塁での送りバントが得点をとるのに有効ではないことが明らかになってきたことが言える。

 今大会でもノーアウト一塁の場面から59回の送りバントを決めた後、得点に繋がったのは18回で得点率にすると約3割になる。一方で強攻策を選択した88回で得点に繋がったのは41回を数え、得点率は5割近い数字となっている。

 ちなみに59回というのは送りバントが成功したケースであり、失敗したケースは13回あったことを考えるとその有効性は更に低いと考えられる。もちろん打力のある選手だから強攻策を選択しているということもあるが、少なくとも甲子園レベルでは判で押したようにノーアウト一塁から送りバントを選択することは得策ではないと言えるのではないだろうか。

 初戦で敗れたものの膳所(滋賀)は、相手チームの打球傾向を分析し、大胆な守備シフトを敷いてその通りに何度も打球が飛んで観客を沸かせるという場面もあった。

 あらゆる大会の映像なども多く配信されるようになっており、このようにデータを活用してくるチームも増えてくるはずである。メジャーリーグプロ野球の進化に合わせて高校野球でも戦い方に変化が起きている、そのことを強く感じる90回記念の選抜大会だった。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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