『チーム・バチスタの栄光』をはじめ、数々のミステリー小説を発表する作家でありながら、医師としても活躍してきた海堂尊さん。浪人時代は、医学部合格を目指して猛勉強する一方で、予備校周辺の古本屋やジャズ喫茶を訪れていた。現在発売中の「駿台予備学校 by AERA」(朝日新聞出版)からお届けする。
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人気作家として知られる海堂尊さん。現在は執筆活動に専念しているが、過去には外科医、病理医として最前線で活躍していた。
高校3年のとき、「人間を勉強したい」と思って医師を目指すようになった。しかし好きだった剣道を夏まで続けた結果、受験勉強に出遅れて現役合格には届かなかった。通っていた高校から薦められた海堂さんは、駿台予備学校への入学を決めた。
「当時、お茶の水の校舎(現・お茶の水1号館)の隣に立ち食いそば屋があって、よくそこへ天ぷらそばを食べに行きました。ちょっと濃いめの味でしたが、慣れてくると、その味じゃないと満足できなくなる。あのだしの匂いと味は、いまでも駿台時代の思い出の一部分です」
先の見えないあせり、授業中に味わった高揚感、休憩時間に街を散策したときの解放感。お茶の水校周辺を歩くと、さまざまな思いがあふれ出す。
「駿台を卒業した後も、そんな気分を味わいたくて、何度も足を運びました」駿台では、苦手科目だった数学を中心に物理、化学、英語、古文と受験に必要な科目を受講し、自宅のある千葉から2時間かけて通学した。
「当時は講師のことを『師』と呼んでいました。それを、なんだかとてもかっこよく感じたのを覚えています」
数学の授業で、ある講師から「これをマスターすればどの大学でも合格できる」と薄いテキストを渡された。
「1ページ1問で、問題が100問もなかったと思います。最初は『嘘だろう』と信じられませんでした」
半信半疑ながらも、講師が言った通りに予習と復習を繰り返し、満点を取れるようになるまで問題を解き続けた。
「テキストを終えるころには、まるで視界が開けたかのように、数学が理解できるようになっていました」