そこが病院ならば待合室でスマートフォンを取り出し、原稿を書き出す。書きかけのまま寝かせている原稿にもがんにちなんだエピソードはあるが、「ぽい」ことへの関心が強い人にはまだ足りないかもしれない。これを盛り込めば……と、そばにいる配偶者に青い顔で話す。いなければ心の中でつぶやく。
「これを盛り込めば『ご期待』にこたえられそうだ」
そうした体のつらさには波がある。これに対し、心のほうは波があるにせよ、最初のショックが大きい。病気になる前、漠然とそう思っていた。
がんの疑いを指摘された人間ドックの結果を人にどう伝えるか。テレビドラマならば初回に出てきそうな話を次回、紹介する。
2016年1月15日夕。福島に単身赴任していた私は東京・築地の本社で打ち合わせを終え、配偶者と近くの銀座で待ち合わせていた。街並みのにぎわいも、空気の冷たさも、ふだんと何も変わらない。
ただ一つ、その日の昼間、福島の職場に届いた1通の封筒がカバンに入っていることを除けば……。