他人のまなざしから逃れられない点では、がん患者が書く文章も変わらない。
「お前はすでに死んでいる、ってこと? 『北斗の拳』みたいだな」。末期がんを宣告された男性によるレシピ本の表紙に「余命ゼロの……」とあるのを本屋で見かけ、突っ込んだ。
私も男性と同じ「おっさん」である。その写真の笑顔がどんなに素敵でも、映画化され話題になった「花嫁」ほど読者の共感をよばないだろうと想像はつく。まして著者は表紙を見る限り、私でも知っているような著名人でもない。書店の本棚も限られた闘病記の「椅子取りゲーム」で争うには、病状の重さを打ち出すことだと考えた人が、周りに誰かいたのだろう。
なかなか鋭い。がんにまつわるレシピ本は少なくない。そのなかで、その表紙は少なくとも私の目に留まったのだから。
そのあたりに切り込んだのが、お笑い芸人の村本大輔さん(ウーマンラッシュアワー)だ。地上波のお笑い番組で政治風刺を披露した時の歯切れよさとは対照的に、ある日のAbemaTVの番組でさんざんためらい、ようやく切り出した。なお、実際の作品名は「余命1ケ月の花嫁」だが、そこは核心ではない。
「前に『余命10カ月の花嫁』みたいな映画があって、みんな見て、泣くわけよ。『バツ3の花嫁』やったら見るんかな? 結婚式場のトイレ掃除のおっさんが余命9カ月だったら映画にする? 花嫁がブスだったら映画にするか? 式場の受け付けが美人で『余命10年』なら『余命10年のめちゃめちゃ美人な受付嬢』って映画をやるんじゃないの? 『女』と『男』が同時上映されたら、か弱いイメージがある『女』を見る。それも差別ではないか』
だいたいそんな話だ。そこから「残り10%のアイフォン」「残り10ミリリットルのポカリ」へと展開する芸人の技は見事だが、ここでは省く。未明の放送をスマートフォンで見ながら、「闘病もの」を求める心に潜むものを突く言葉に驚嘆した。