隆之さん(仮名)は、仏頂面でおいでになり、開口一番「浮気したこと自体は私が悪いので、妻が来いと言うことに拒否権はないと思うから来ましたが、(離婚したいという)私の気持ちは変わりません。他に言うことはありません」と言い切りました。取り付く島もないなぁと感じながらも、隆之さんの気持ちを聞いていくと、次第に気持ちが緩んできて、妻への怒り・不満をおっしゃいました。世間的にみれば不倫をした夫が怒りと不満をぶちまけ、それを妻が共感するというのも妙に見えるかもしれませんが、妻も隆之さんの気持ちに共感を示されて、夫婦で涙し、その後お二人で話ができるようになりました。

 一方、梢恵さん(仮名)は、「自分は浮気をしてしまって、悪いとわかっている。どうにか夫をこれ以上傷つけないようにしたい。ただどうしたらいいかわからない」と沈痛な表情でおっしゃっていました。しかし、結局話していくと、夫とよりを戻すことが「正しいことだ」と考えている一方で、気持ちとしては「彼(浮気相手)とやっていきたい」ということでした。

「正しいことを取りますか、気持ちを取りますか?」

とお聞きすると、

「ああ、私の悩みはそういうことだったのですね」

と腑に落ちたようでした。

 この2人のケースは、分水嶺を越えていたようです。もちろん、結婚したときから超えていたはずはないですから、どこかのタイミングで越えたわけです。ただ、自分でもタイミングはわからなかったのです。

 豊原さんたちのケースが分水嶺を越えているのかどうかは、誰にもわかりません。しかし、公表するということは、強く自分の背中を押しますから、きっとその方向に進むのでしょう。

(文/西澤寿樹)

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