■補聴器で聴力を回復できる

 聴力と認知機能の関係について、諸外国では多くの研究報告があるといいます。60歳代の605人を対象に実施した全米国民健康栄養調査では、「25デシベルの聴力低下があると、聴力低下のない人と比較して7年早く認知機能の低下が進む」という報告が得られています。また、フランスで25年間の追跡調査を実施した結果、補聴器を装用して聞こえを適正に補うことで認知機能の低下が抑制されるという報告が得られています。日本では、まだ公式な研究結果は出ておらず、これからデータの集積と解析が進められると小川医師は話します。

「しかし、診療の場で患者さんを見ていると、補聴器などで聞こえが改善することで、本人や家族から『会話が増えた』『明るくなった』などという声が聞かれるので、生活や行動、気持ちが変わることは間違いないと思われます」

 現在のところ、加齢による難聴を治す治療法はありません。しかし、補聴器を装用することで聴覚機能を補い、聞こえを改善することは可能です。

「日本では、補聴器の普及率はまだ低く、聞こえの悪さを認めたくない人、『年のせいだから仕方ない』とあきらめてしまう人が多い実情があります。認知機能の低下を予防するためにも、聞こえの悪さを自覚したら耳鼻咽喉科で相談し、補聴器の装用を検討することをおすすめします」(同)

■補聴器の正しい選び方

 補聴器を使おうと考え、すぐに補聴器販売店に行く人も多いようですが、まずは耳鼻咽喉科を受診するように言われるはずです。それが補聴器販売店として正しい対応なのです。耳鼻咽喉科では、聴力低下の原因、治療や補聴器の必要性などについて医師が診断します。加齢性の難聴と診断されたら、補聴器の装用を検討します。

 補聴器は、法制度により定められている医療機器及び補装具で、装用にあたっては、医師や専門家の診断とコンサルティングを受けたうえで購入することが必要です。医師では、補聴器について専門的な知識と技能を持つ日本耳鼻咽喉科学会認定「補聴器相談医」に相談しましょう。補聴器相談医は、難聴とその程度、補聴器装用の必要があるかどうかの診断をおこない、どのような補聴器が適しているか、どのような調整が必要かなどを判断し、補聴器購入に必要な診療情報を販売店に提供します。

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