2012年~2013年のシーズンを前に、長谷部はさらなる経験をと、イギリス・プレミアムリーグへの移籍を考えていた。しかし、結局この移籍話は頓挫し、再びヴォルフスブルクへと戻らざるを得なくなる。

 だが、一度はチームを出ようとした28歳のプレーヤーを監督は認めなかった。チームに戻った長谷部は、チーム練習に加わることが許されず、特別メニューをひとりこなすことを課せられる。

「もちろん、自分がまいた種なんですが、こんな理不尽なことがあるのかというぐらいの状況でした。苦しんで、もがいて、どうにかしてこの苦境を耐えて忍ばなきゃいけないと思っていました。でも、サッカー選手としてやらなければならないことを続けていれば、いつか運命が自分に味方してくれると信じてもいました」

 森の中をひたすら走らされ、チームがボールを使って練習しているなか、横のグラウンドでのランニングが命じられたりと、懲罰的なメニューをこなす日々。「これまでのサッカー人生のなかでいちばん走った」というぐらいきつい練習が3、4カ月も続いた。

 長谷部は、しかし、これを糧とした。

「あの干された時間というのが、いまの自分をつくるうえでは何にも代えがたい財産になりました。いまでは、監督に本当に感謝しています。あのときの経験がすべて自分のものになったし、さらに人として成長できる時間でした。たとえば、海外でやっているほかの日本人選手の苦しみや、苦境に立たされている人、厳しい状況にいる人がいても、少し心に寄り添うことができるようになったというのが、僕にとって大きな収穫でした」

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