■「胃」「食道」も対象に
内視鏡AIの実用化が相次ぐのはなぜか?
富士フイルムで商品企画を担う浅野峻吾氏は、従来、X線やCTなど静止画での診断を支援するAI技術の実用化が先行してきたが、内視鏡での実用化には、AIのなかでも深層学習(ディープラーニング)の発展が鍵になったと語る。
「AI技術の進歩により、臨床現場の期待に応じるレベルまでAIの性能が高まってきました。もともと内視鏡は、CMOSカメラを採用するなど、どんどん高精細化し、画像の容量も大きくなってきていたんですね。それに、内視鏡は動画での診断ですから、リアルタイム性のある高速なアルゴリズムが求められます。ディープラーニング技術の進化により、高精細の動画を扱い、なおかつ複雑なアルゴリズムを高速に動かす必要がある診断支援AIにも対応できるレベルに追いついてきたということです」(浅野氏)
もう一つ、ハードルが高かったのが、「胃の腫瘍」や「食道がん」が疑われる領域を検出の対象としたこと。同社の「CAD EYE」が当初ターゲットにしていたのは、大腸領域であり、「胃」「食道」へ対象を拡大して22年9月に薬事承認取得にこぎ着けるまでに、約2年の月日を要した。「大腸」からの対象拡大は、大きなステップアップだったと浅野氏は語る。
「胃がんの場合、大腸とは比べものにならないぐらい、開発の難しさがありました」
内視鏡AIでの胃がん検知の難しさについては、AIメディカルサービスと共同開発を進めてきたがん研有明病院の平澤医師がこう解説する。
「胃がんの検出が難しいのは、胃壁に赤い炎症があって、腫瘍との判別が難しいから。胃がんの専門医でも『職人芸』的な側面があり、一人前になるのには10年かかると言われています。だからこそ、どの医師にかかってもがんを検出できるような『均てん化』を目指したいし、そのためにもAIによるアシストが待望されているわけです」
(ジャーナリスト・古川雅子)
※AERA 2023年2月13日号より抜粋