AERA2023年2月13日号より
AERA2023年2月13日号より

 もともと内視鏡医としてクリニックの理事長を務めていた多田氏は、15年にAIの画像認識が人間の能力を超えたことを知り、「医療現場の悩み事の解決にAIが使えるのでは」とひらめいた。17年、医師として働きながら起業に踏み切る。

 課題になっていた悩み事とは、読影医が検査画像に目を通す、膨大な作業の負担だった。内視鏡は高精細になり、自治体の検診は内視鏡検査がスタンダードとなった。読影医の数は変わらないのに、作業量は90年代からの10年間で3倍にも上った。「多い時は、1時間で3千枚以上に目を通すこともありました。正直大変でしたよ。人間だと、集中力も続かなくなりますから。実際、早期胃がんの4.6~25.8%が見逃されているというデータもあります。人工知能のアシストにより、医師のケアレスミスは間違いなく減っていきますよ」

■98%の精度で検出

 18年、共同研究先のがん研有明病院の平澤俊明医師とチームを組み、世界初の内視鏡静止画像における胃がん検出AIを世界的な学術誌に報告。6ミリ以上の胃がんを98%の精度で検出できた。現在は動画データを元にがんを識別できるAIを開発し、21年には「胃がん鑑別診断支援AI」を薬事承認申請した。現在は継続して審議中だ。

 調査会社のP&Sインテリジェンスによると、世界の医療画像向けAIの市場規模は2030年に119億ドル(約1兆5千億円)に上るという。国内市場も伸びていく見込みだ。

 内視鏡AIに早くから触手を伸ばしたのは、主に、日本が検査機器の領域で世界を牽引(けんいん)する内視鏡メーカーだ。創業当初からX線フィルム製品を扱っており、ヘルスケア産業を主軸事業としてきた富士フイルムは、内視鏡トップメーカーの一つだ。20年11月、同社は大腸ポリープなどの検出を支援する内視鏡診断支援機能「CAD EYE」の発売にこぎ着けた。また、オリンパスが潰瘍性(かいようせい)大腸炎を評価する内視鏡AIを21年2月に発売。続いてNECも、同年バレット食道や大腸の腫瘍を検知する製品を発売している。

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