医療の領域を、AI技術が変革しようとしている。これまで医師が目視で行っていた診断に、AIを補助的に使うことで、可能性が広がる。AERA 2023年2月13日号から。
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政府がAIを使った画像診断ソフトなどを早期承認する新制度の拡充を打ち出したのは、2022年末のこと。デジタル技術を利用して診断や治療を支援するソフトウェアやデバイスは「プログラム医療機器(SaMD)」と呼ばれ、医療の質の向上や産業振興への取り組みとして注目が集まっている。
年明け1月20日に内閣府から発表された「日本オープンイノベーション大賞」の日本学術会議会長賞を受賞した、「AIメディカルサービス」(東京都豊島区)は、プログラム医療機器のなかでも「内視鏡診断支援AI」(以下、内視鏡AIと表記)に特化した研究開発で注目されるスタートアップだ。受賞の3日後、同社を訪ねた。研究開発中のAIが「診断アシスト」を行う様子を実演してもらった。
■感度が医師より高い
同社代表の多田智裕氏が、内視鏡の先端部を、胃の粘膜の画像に向ける。素人(しろうと)目には病変部が全くわからない画像の中から、割り出された病変部位が「ピコン」というアラーム音とともにマーク付きで表示される。すると「90%」といった数字が出力される。AIが割り出した「早期胃がん」の見込みの度合いを表す数字だ。実際、マーキングされた該当箇所は、早期胃がんを写した部位だった。
胃がんの検出でその能力を人間と比べた研究によると、感度(陽性を陽性だと正しく診断する率)はAIが58.4%、内視鏡医が31.9%でAIが内視鏡医を大幅に上回った。一方、特異度(陰性を陰性だと正しく診断する率)はAIが87.3%で、内視鏡医が97.2%だった。
多田氏はAIによる診断補助の可能性を、こう話す。
「AIは教師データ(それぞれの例題に対応した正解が用意されているデータ)から学んだ病変部位を、正確に見逃すことなく特定するのがうまい。逆に、思いがけないエラーを感知できる人間は、陰性を陰性だと見分けるところが、AIを上回りました。診断を決めるのは医師で、AIは道具ですから、AIと人間が、お互いのいいところを組み合わせていけばいいんですよ」