首都圏の病院を襲う危機とは?(※写真はイメージ)
首都圏の病院を襲う危機とは?(※写真はイメージ)
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 東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。だが、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、経営難に直面している病院についても警鐘を鳴らしている。首都圏の病院を襲う危機とは。

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 経営難に苦しむ首都圏の病院が、まず切り詰めるのが、医師の人件費です。

 東京には医師数が多く、大学病院には教授や准教授を希望する医師も多くいます。供給が多ければ、価格は下がるという、経済原理が働きます。

 東大医学部の後輩で、現在、都内の大学病院の准教授を務める40代の医師は「手取りは30万円台」と言います。彼の妻は専業主婦で、二人の子供がいます。家賃補助などの現物給付も微々たるものなので、彼はアルバイトに明け暮れています。毎週一日は都内のクリニックで外来、週末は当直です。これで月額50 万円程度稼いでいるようです。

 月額50万円は、サラリーマンの平均から比べると高額ですが、彼は毎朝8時から午後11時くらいまで働いています。土日も出勤します。勤務時間と外科医という重圧を考えれば、就労環境は過酷です。

 この私大病院は都内で最も経営状態がいいとされています。

 確かに、極端なコストカットをすれば、短期的には収益は上がるでしょう。しかし、人材に投資しなければ医師は育ちません。医師が育たなければ、医療レベルは上がりません。

 対照的に、福島県いわき市の常盤病院は人材に投資しています。著名な研究者を雇用し、若い医師の論文の指導を依頼しています。この研究者は医師ではないため、短期的には病院に一円の売上ももたらしません。しかし、若い医師は臨床で経験した問題を論文としてまとめ上げ、実力をつけていきます。また、医学者として重要な論文実績も積み上がります。

 この病院には、多くの若い医師が勤務を希望するようになってきました。

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