新旧の監督対決。時代の移り変わりの中で両者が甲子園でシンクロする構図に、初采配の中村が「何かを感じる」というのも無理はない。対戦が決まった後の監督対談で、中村は阪口からこう言われたという。
「この試合が思い出に残る試合になればいいね」
名将の言葉が心に響いた。
「僕もその通りで、今日のこの試合が僕にとって一生残る試合になると思います」
ただ、勝者と敗者が分かれる世界。中村は一歩も引かない覚悟で「何とか良いほうの思い出にして残したいですね」と言った。
守り切り、攻撃では先制、中押し、ダメ押しと攻め続けることが理想――。
試合は中村が思い描いていた通りの展開になった。2回裏に4番・神野太樹のソロアーチで先制した天理は、中盤に2点ずつを加えてリードを広げる。8回裏にダメ押しとなる6点目を主将・城下力也のスクイズで奪った。投げては先発の2年生左腕・坂根佑真が9安打を浴びながらもホームベースへの生還を許さずに完封。ただ、盤石の試合運びにもかかわらず、中村は9回表1死一塁の場面で背番号13の橋本大剛を伝令役としてマウンドに送った。
「27個のアウトを取るまでは何があるかわかりませんから。こちらが8回裏に6点目の1点をスクイズで取ったように最後まで攻め続ける。その中でも『落ち着いてやりなさい』ということを伝えたかった。最後は併殺。みんな落ち着いてやってくれましたね」
現役時代に全国制覇を経験し、甲子園で勝ち上がる感覚を持つ中村は「勝つ術」を知る一方で、勝つことの難しさも知る。それだけに、甲子園初采配は最後まで気を抜くことがなかった。
初戦突破。天理のユニフォームと関わる中村にとっては、実に31年ぶりとなる夏の甲子園での1勝だ。
「選手に感謝です。僕の想像以上に守って打ってくれました。初戦からこういうゲームをしてくれた選手たちは凄いと思います。100点満点です」
選手らが大舞台で最大限の力を発揮できるのは、中村が醸し出す空気感があるからこそだ。天理は試合前日の全体ミーティングをしない。