各自治体の地域包括支援センターは、困りごとの相談を受け、必要な支援につなぐ「ハブ」の役割を果たす。東京都世田谷区の場合、「あんしんすこやかセンター」という名称で、区内27カ所に設置されている。週刊朝日MOOK「家族で読む予防と備え すべてがわかる認知症2017」では、具体的にどのようなサポートをしてくれるのか、同センターの内藤麻里さん(社会福祉士)、佐々木由実さん(同)、大川真希さん(看護師)に事例を紹介してもらった。
【ケース1】 生活環境を整える
畑中芳美さん(仮名・82歳)は、一軒家で一人暮らし。以前はご近所との付き合いもあったのですが、だんだん旧知の人がいなくなり、自宅に引きこもりがちになっていました。半年ほど前からはよく転ぶようになり、その日は顔に大きな擦り傷があることに気づいた大家さんが心配して、あんしんすこやかセンターに連絡してきました。
さっそくセンターの職員が畑中さん宅を訪問。何回か通って話を聞くうちに、もの忘れに加えて「人の姿が見える」といった認知症を疑う症状が見られたため、もの忘れ外来への受診を勧めたところ、レビー小体型認知症であることがわかりました。
結果を受けて畑中さんに話を聞いてみると、このまま住み慣れた家でできる限り暮らしていくことを希望する一方で、「また転んで大けがでもしたら……」と不安を訴えたため、「認知症初期集中支援チーム事業」をおこなうことになりました。
この事業は、できるだけ早い段階に医師や看護師、作業療法士などの専門職チームが関わって、記憶力など生活に必要な能力や機能がどの程度損なわれているかを判断し、自宅でできるだけ自立した生活を送れるように支援の道筋をつけるもの。世田谷区では2013年度から始まり、他の自治体でも導入が進められています。
センターから連絡を受けた支援チーム員の看護師が中心になって定期的に畑中さんの家を訪問。転倒を防ぐための手すりを設置したほか、「いるはずのない人が見える」といったレビー小体型特有の症状には、室内照明を明るくするなどの環境調整をし、医師に薬を処方してもらいました。当初は薬の飲み忘れがあったのですが、看護師が定期訪問で気づき、訪問調剤の薬剤師に飲み忘れ防止の工夫をしてもらうことできちんと服薬できるようになり、症状も改善してきました。