そんな中でも、この時期のスライダー投手で、伝説的な存在となっているのがヤクルトの伊藤智仁だろう。肩の故障で実働期間は短かったが、当時の野村克也監督が「長いこと監督をやったけど、あいつがナンバーワン」と絶賛し、故・青田昇氏をして「プロ野球史上で本当のスライダーを投げたのは、藤本英雄、稲尾和久、伊藤智仁の3人だけ」と言わしめた。
2000年代に入ると、メジャーリーグに移籍する投手は、軒並みこの球を得意とした。「平成の怪物」と呼ばれた松坂大輔(西武など)を始め、カットボールを駆使した川上憲伸(中日など)、カーブのような大きな軌道で曲がる「スラーブ」を武器とした石井一久(ヤクルトなど)あたりが代表格か。現在、メジャーで活躍するダルビッシュ有(レンジャーズ)、田中将大(ヤンキース)、前田健太(ドジャース)の各種スライダーは、本場でも評価が高いウイニングショットとなっている。
メジャー移籍組以外では、松坂世代の新垣渚(福岡ソフトバンクなど)のスライダーも印象深い。その鋭い切れ味は、逆説的だが暴投数にも表れている。左腕では、昨季限りで引退した武田勝(日本ハム)も独特のスライダーを駆使し、MAX130キロ前後の速球でも10年以上も活躍した。
近年では、菅野智之(巨人)のカットボールが、セの各打者を苦しめている。さらに若い世代では、桐光学園時代に甲子園で奪三振記録を塗り替えた松井裕樹(東北楽天)や、瀬戸内高時代の甲子園での熱投を見たダルビッシュがSNSで絶賛した山岡泰輔(オリックス)らが、「名手の系譜」を受け継ごうとしている。