交わることがない交渉が1時間以上続いた。職員の態度は居丈高ではなかった。しかし何度も、「私は間違っていない。今日は8日なんだ」と繰り返した。かつての社会主義国の役人の顔をしていた。

 折れるしかなかった。列車の発車時刻が迫っていた。罰金は65ドル。オーバーステイである。

 ポーランドとの国境は、濃い霧に包まれていた。列車はそのなかをワルシャワに向けて発車した。

 朝の7時すぎ。ワルシャワセントラル駅に着いた。駅舎を出、「フーッ」と肩の力が抜けた。ワルシャワセントラル駅には自由のにおいがした。路上生活のおじさんが、階段で眠る駅だったが。

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

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