さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第29回はベラルーシのイミグレーションについて。
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ロシアとポーランドの間に、ベラルーシ共和国という国がある。その強権ぶりで知られるルカシェンコが大統領で、ヨーロッパ最後の独裁国家などともいわれている。
列車でモスクワからポーランドのワルシャワに抜けるときは、ベラルーシを通過するルートをとる人が多い。
今年(2017年)3月、僕もベラルーシを通過した。
この旅が決まった頃、ベラルーシからビザ免除の発表があった。ロシアはビザが必要だが、ロシア以西で日本人にビザを課している国は、ベラルーシぐらいかもしれない。そのベラルーシもビザが免除になるようだった。
何回か東京のベラルーシ大使館に連絡した。なかなかビザ免除の具体的な情報は届かなかったが、2月末、その概要がわかった。ビザが免除になるのは、飛行機で首都のミンスクに入る旅行者だけ。列車での旅行者はビザを取得する必要があった。しかたなく、3月6日と7日が有効のトランジットビザをとった。トランジットビザは通過専用のビザである。
モスクワを出発したのは3月7日の午後3時すぎだった。5時間ほど走ると、ベラルーシ領に入る。
30年近く前、このルートを列車で通過していた。記憶はおぼろげだったが、国境で出入国審査は行われた気がした。
ところが今回、入国したにもかかわらず、審査なしで列車は進んでしまった。結局、ベラルーシを横断し、ポーランド国境近くのブレストセントラル駅で審査は行われた。3月8日の午前3時……。
「今日は8日。ビザが切れている」
イミグレーションの職員はパスポートを見ながら指摘した。僕は反論した。
「いや、ベラルーシ領には7日に入っている。ブレストセントラル駅で、入国と出国の審査を一気に行うから、8日になっているだけでしょ」