
さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第28回は中国の蘭州中川空港から。
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その国を代表する空港でもないというのに、なぜか何回か利用してしまう空港がある。中国でいったら蘭州中川空港だろうか。利用した回数でいえば、上海や北京の空港の方が多くなるが、その次あたりにこの空港がランクされてくる。6、7回は使っただろうか。
ウルムチやカシュガルのある新疆ウイグル自治区やチベットを歩くとき、その入り口や出口にこの空港が位置している。辺境の出入り口空港といってもいいかもしれない。
そしていつも考え込んでしまう空港でもある。
はじめて利用したのは、20年以上前である。当時は飛行機の便数も少なく、席を確保するだけでも大変だった。宿泊したホテルの1階に店を構える旅行会社に頼んだのだが、3日ほど待たされた記憶がある。毎朝、そして昼すぎに顔を出し、空席が出たかどうかを確認するのが日課になってしまった。
ようやく手に入った航空券を握りしめて空港に向かった。バスで1時間以上かかった。当時はまだ小さな地方空港の趣だった。
チェックインも終わり、飛行機に乗り込んだ。前から4列目あたりだった記憶がある。さて、離陸という段になって、空港の職員が現れた。彼は最前列に座る3人の乗客を立たせた。なにやら会話が交わされ、3人の乗客は荷物をもって機内から出ていった。代わって乗り込んできたのは、黒いコートを着た3人の男たちだった。共産党の幹部であることは、その雰囲気でわかった。