ラオスへの入国審査はこの駅で行われる。気になったのか、入国審査官が出てきてくれた。
「午前中はトゥクトゥクがいたんですけど」
ノンカーイからタナレーンに向かう列車は、午前と午後に1往復ずつある。
乗るたびにその存在感が薄れてくるのがよくわかる。開通当初は、ラオスでは戦後初の鉄道ということでにぎわったが、その熱も冷めてしまった。
さて、どうしようか。
すると立派な車が1台やってきた。なかから欧米人のビジネスマンがふたり降りてきた。仕事を終え、時間があるから列車でタイに行こうと考えたようだった。車は高級ホテルが手配したタクシーだった。
「乗ります?」
運転手がにこやかに笑う。
「400バーツでどうです?」
日本円で1300円ほど。高いがほかに車がないから仕方がなかった。
なぜ線路が先に延びないのか。それはラオスというより、タイと中国の問題だった。南から北上してラオスを経済圏にとり込もうとするタイ。北の中国も方向は違うが、同じことを考えていて、ラオスに延びる鉄道計画も調印にこぎつけている。両国の思惑がタナレーン駅でぶつかり、この駅より先に1センチの線路もつくることができなくなっていた。
列車の乗客も数えるほどだった。
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)
1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など