さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第24回はラオスのタナレーン駅から。
* * *
ラオスでたったひとつの鉄道駅である。
フランスの植民地時代にラオス南部にも鉄道がつくられたが、いまは見る影もない。ラオスは海がない小国である。長く鉄道がない時代をすごした。しかし2009年、タイのノンカーイからメコン川に架かる橋を通り国境を渡る鉄道が完成し、ラオスにもタナレーン駅ができた。
ノンカーイからタナレーンまでは3.5キロ。乗ってみればわかるが、もうあっという間である。これがラオス唯一の鉄道で、タナレーン駅がラオス唯一の駅というのは、なにか寂しい気がするが、これしかないのだからしかたない。
この鉄道はタイの資金でつくったが、計画では線路はさらに延び、駅もいくつかできるはずだった。しかし完成から6年以上がたったいまでも、線路が先に延びる気配はない。この駅からビエンチャンまでは20キロ以上あるが、公共の交通機関はない。不便な終着駅になってしまった。
というのに、僕はこの駅を3回も利用している。はじめて乗ったときは物見遊山だったが、2回目以降は仕事である。
昨年(2016)年にもこの駅に降り立った。当然だが、駅前にはなんの建物もない。駅舎を出たところでトゥクトゥクとう三輪タクシーを探したが、それもなかった。