3年前のソチ五輪での個人銀メダルに、ワールドカップ(W杯)史上最年長優勝、さらに前人未到のW杯通算500試合出場と、常識をくつがえす数々のサプライズを起こしてきた“レジェンド”ことノルディックスキー・ジャンプ男子の葛西紀明(44)がW杯で苦戦を強いられている。
2014年11月以来となるW杯最年長優勝の更新を目指して迎えた今季だが、個人第17戦を終えた時点で最高成績は10位。試合ごとに与えられるW杯ポイントの合計で争う総合順位も、23位に甘んじている。過去3季の総合順位は8位(2015/16)、6位(2014/15)、5位(2013/14)。総合10位以内に与えられる予選免除の特権を生かし、公式練習や試合前の試技で飛ぶ本数を減らして本番に集中するやり方が好成績の秘訣でもあった。だが、「あと10年飛ぶには(本数を)減らした方がいい」と軽く言う44歳も、今季は休息返上で飛ぶことが多い。
例年とどこか違う感覚は開幕戦からあった。昨季は5位、一昨季は6位と好成績で初戦をスタートし、そのまま一桁順位をキープしながら表彰台争い、優勝争いに絡んでいっていたのが、今季は個人開幕戦(フィンランド・ルカ)で18位。「助走のスピードが出ていなかった。もっとスピードが出れば飛距離も伸びてくると思う」と首をかしげていたが、助走時の重心のずれから速度が上がらず、本来のジャンプが出なくなっていった。
33位に終わった個人第5戦(ノルウェー・リレハンメル)では、1回目の飛躍で助走速度が出場した中で最も遅いということもあったが、徐々に改善。それでも、「スピードが出ていないことが気になって、(助走の)ポジションを探しながらやっていると、(踏み切りの)タイミングが遅れるという…。助走がうまく滑れていない。ポジションがバラバラ」と、一気に復調とまではいっていない。
ただ、葛西自身、この状況は想定していたことでもある。「ジャンプは1年で変わってしまう。これが怖い。ソチからの3年くらいは、よくコンスタントにキープできたなと。こういうシーズンがあってもおかしくないなと思っていた。我慢というか、どういう風に打開するか毎日のように考えている。ここ2、3年は何も考えずに飛んでいたけど。こういうこともあったなあと、若干懐かしい感じがする。こればっかりは焦ってもしょうがないというのが長年の経験で分かっているので」。今は辛抱の時と受け止めている。