伝統芸能だからといって問答無用で「こうやらなくてはだめだ」と押さえつけない。まず一回は自由にやってもらう。そこからもっとこうしてみたらと徐々に気持ちを広げていってあげることです。頭ごなしではやる気は起こりません。人の気持ちを丁寧にコントロールしていくことが上に立つ者の条件ではないでしょうか。
結婚をして、いまとても充実しています。身のまわりの世話はすべて弟子がやってくれていてなにひとつ不自由はなかったので、結婚なんて窮屈なものは一生しないと思っていました。してみて驚きました。なんてあったかいものだろうと。帰る家に電気がついていて、着物の世話も食事の用意も妻がしてくれる。一緒になって考えてくれる人が横にいる幸せ。
まさに結婚もそうでしたが、人生はタイミングとご縁でできていると思います。いくら自分がやりたいと願ってもタイミングやご縁がなければ仕事は生まれない。タイミングが来たらちゃんとご縁ができて、その仕事に出合えるようになっている。これもどんな仕事にも言えるのではないでしょうか。だから、ご縁というチャンスが到来したときは、難しいとか無理そうなどと尻込みしないで取り組むべきです。
守るべき伴侶ができて仕事への責任感が一段と強くなりました。歌舞伎をさらに何百年と続けていくためにも、上方歌舞伎と江戸歌舞伎の両輪でやっていくこと。これが僕の歌舞伎俳優としての夢です。上方歌舞伎のために僕はあえて大阪に居を構えつづけ、大阪弁を話します。大阪にも歌舞伎座のような一年中上演している上方歌舞伎の劇場をもつことが悲願です。しがみついてでも実現していきたいですね。
(構成・守田梢路)
※アエラスタイルマガジン32号より抜粋